それだけ？ ページ14
智に案内してもらって楽屋まで来た。
智が先に入ってしょーくんに事情を話す。
「Aがしょーくんと話したいって言うから連れてきた。
話聞いてあげて？」
「…。
ん…。」
ドアの向こう側からやり取りを聞いていると
智がひょこっと顔を出して
「入りな？」
と呼んでくれた。
ありがとうとお礼を言って
子猫みたいに不安そうな目をした智に
2人にして欲しいとお願いして席を外してもらった。
「…しょーくん？」
楽屋には向こう側を向いてソファーに座って新聞を読んでいるしょーくんがひとり。
私の呼びかけにぴくりと身体を反応させて
「…何？」
低い声で応えた。
ちょっとの間沈黙してしまったけど、勇気を出して言葉を発する。
「ごめんなさい。
私に少し時間ください。」
新聞を閉じてゆっくりこちらを向くしょーくん。
目が合った瞬間逸らされた。
しょーくんの目を見たら
私を庇ってくれた時に聞いた鼓動を思い出す。
それにつられて私の鼓動も早くなった気がした。
「…うん。
…何？」
しょーくんの
はぁ〜っと深くつくため息が聞こえて苦しくなる。
どくどくどく…。
「謝りたくって。
…ごめんなさい。」
「…何に？」
「しょーくんが庇ってくれたのに私がしょーくんを責めちゃった事。
本当はありがとうって言わなきゃいけなかったのに。
ごめんなさい。
ありがとう。
怪我はない？」
「…。」
しょーくんの答えを待つ。
とても長く感じたけど実際は数秒だったのかもしれない。
「…それだけ？」
「え？」
「…その事だけ？」
「…。」
はぁ〜っとまた深いため息をつく。
唇に人差し指を当てて何かを考えている。
その癖は昔から変わらないね。
もっと時間が欲しかったけど
撮影を中断させる訳にはいかない。
そしてその空間に居たたまれなくなって。
「…うん。
じゃあお仕事頑張ってね。
本当にありがとう。」
ぺこりと頭を下げて楽屋を出る。
ヤバい。
なんか泣きそう。
こんなところで泣くなんてみっともない。
外で待っていた智にありがとうってすれ違う時にお礼を言って足早にその場から逃げる。
人に…男の人に泣き顔は見られたくない。
涙を武器にする女とは一緒にされたかない。
「Aっ。」
智が腕をつかもうとするのをすり抜けて
「撮影頑張ってね。
みんな待ってるから行かなきゃ。」
振り向かないで告げて去った。
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作者名：ことら | 作成日時：2017年12月13日 14時
