149.甘え方 ページ7
SIde:kj
あれから、メンバーで交代しながら、
仕事の合間を縫っては阿部くんのお見舞いに通っていた。
大阪での仕事を終えて、
早めに戻ってくることが出来た俺は、
スーツケースを引きずりながら、
病院を訪れている。
もうすっかり歩き慣れてしまいそうな廊下を進み、
いつもと同じ部屋の前に辿り着く。
静かにドアを開けると、
阿部くんは窓の外を見ながら、
何かに思いをはせているようだった。
なにか触れられない空気を感じて、
しばらく話しかけられないまま遠目にそれを見つめた。
消えてなくなってしまいそうな空気は、
目を覚ましてから見ることは無かったが、
何かここにない、
遠くのものを見ているような、
不思議な表情を浮かべているときがある。
何を考えているのかは、
自分には分からなかった。
そのままゆっくり振り返るタイミングに合わせて、
「阿部くん！」
と、明るく声をかけた。
彼は驚いたような顔をして、
先程までの不思議な表情をしまい込む。
優しく微笑んで、
俺に向かって手を振った。
「大阪から帰ってきてん。
…ほんで、これお土産！」
手に持っていた紙袋から、
大阪で買ってきたたこ焼き味のせんべいを出して、
ベッドの上に置く。
「あ、あと、これと、これも。…これもや」
帰りの駅で、阿部くんが笑うのが見たくて、
気がつけば色々と買い込んでいた。
ベッドの上に広げると、かなりの量があって、
阿部くんは困ったように笑っている。
「…自分で言うわ。
買い過ぎや…」
俺がしゅんとするのを見て、
阿部くんは嬉しそうにその中から一つを手にとって、
開封する。
せんべいを口に放り込むと、
親指を立てて「おいしい」という顔をして笑ってくれた。
本当に優しい。
思えば、こうして二人っきりで時間を過ごす機会は
あまりなかったような気がする。
加入したての俺は人見知りで、
阿部くんはどちらかというと、
自分から話すよりは、聞き上手だったから、
当初は距離の縮め方がわからなくて。
そんな俺を、
彼は自然にグループの輪に入れてくれて、
慣れた後も、
阿部くんはいつも一歩引いて俺たちのことをにこにこ見守ってくれていたから、
俺が一方的にボケ倒すのを、
横でにこにこ見ていてくれた。
だからこうしてプライベートで、
一対一で改めて話したことは無かったように思う。
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雪兎（阿部担）(プロフ) - 数年ぶりによんだんですけど、本当にこの話大好きで、何回読んでも泣いてしまう最高の作品です。ありがとうございました！！ (9月4日 21時) (
レス) @page38 id: 265bbda4f1 (このIDを非表示/違反報告)
ﾅﾂｷ - 他の方が書かれてるように読んでいくうちに物語に引き込まれて、止まらなくなりました。こんなに泣きながら小説を読んだのは初めてです。所々切なくて胸に刺さる部分もありましたが、最後mmabが結ばれて良かったです。素敵な作品をありがとうございました。 (2022年4月29日 23時) (レス) @page38 id: 2d51285911 (このIDを非表示/違反報告)
なぎしゅう(プロフ) - 読み始めたら止まらなくて一気に読みました。途中ハッピーエンドになると書いてあったけど、切なすぎて胸が痛くなるのは止められず目が腫れるほど泣きました。skabが好きなのでskが切なかったけど、ノンフィクションじゃないかと思える感動な作品で、読めて幸せです。 (2021年3月25日 12時) (レス) id: dee66be56c (このIDを非表示/違反報告)
あか - 涙が止まりませんでした(T_T) (2021年3月19日 21時) (レス) id: aad3573941 (このIDを非表示/違反報告)
yum(プロフ) - 今更ながら、読ませていただきました。もうなんだか感動しすぎて…笑一気に読んでしまいました笑これからも他の作品読ませていただきます！ (2020年7月15日 2時) (レス) id: a05dc0eb83 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：haryu
| 作成日時：2020年6月15日 17時
