標的94 ページ1
＊
「──っはぁ、はあッ……はぁ……ッ！」
ぱしゃり、足元で飛沫が跳ねる。
寂れた路地に木霊する荒い息。
私は走っていた。
ひたすらに、目の前を行く一匹の蝶を追って。
──骸に言われた通り、私はダクトを通じてなんとか脱出に成功した。
子供がギリギリ通れるほどの入り組んだ通風管だ、恐らく向こうも想定外だったのだろう。
任務での経験を活かし、何とか外に出ることはできたものの。
「いたぞ！あそこだ！」
「ッ……！しつ、っこい……！」
またしても背後で聞こえた声にうんざりしながら、雨だか汗だか分からぬ額の水滴を拭う。
どこまでも追いかけてくる白服の男たち。
追手が来るのは分かっていたが、迎撃しようにも武器などない。
私はただ、逃げることしかできなかった。
ぎり、と奥歯を噛む。
足が痛い。息が苦しい。
どれだけ走ればいいんだろう。
……なんで、こんなことに……
捕まればただでは済まないという緊張感が、焦りを増幅させる。
そんな私のことなどお構いなしに、目の前の蝶は雨粒を弾きながら、呑気にもひらひらと飛び回っていた。
こいつ、一体どこへ向かってるんだ……？
心なしか、最初に見た時より炎が弱まっているような気がする。
骸は確か“匣兵器”とか言ってたけれど、これがどういうものなのかはいまいち理解できていなかった。
あの言い方からするに、本当の生き物……というわけではなさそうだ。燃えてるし。
もしかして、死ぬ気の炎を燃料に動いてるのか……？
だとすれば、この炎が消えた時が──一巻の終わり。
「たのむ、もうちょっとだけ頑張ってくれぇ……！」
すがるように見つめながら、スラムと化した下町を駆け抜ける。
建物の向こうへ消えた蝶に続き、角を曲がった──その時だった。
突然ぐん、と引かれる手首。
咄嗟に振り返れば、路地裏から伸びる腕が、私の手をきつく捕らえている。
「ッ離し、っむぐぅ、」
一瞬だった。
建物の隙間に為す術なく引きずり込まれ、一気に血の気が引いていく。
背後から覆われた口。
圧倒的な力で押さえつけられ、身動きが取れない。
「んん！！んんんぅ！！」
“殺される”。
直感がそう告げている。
嫌だ、まだ、こんなところで……！！
本能にも近い恐怖。
同時に、リングをはめた指先が急速に“冷えていく”のを感じた──その時。
「ゔぉおい、静かにしやがれ」
雨音の合間、その耳に飛び込んできたのは。
確かに聞き覚えのある声だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 423人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
オウリ(プロフ) - こまりさん» ありがとうございます~！近いうちに続編公開するのでお待ちください！ (6月14日 12時) (
レス) id: df42654abf (このIDを非表示/違反報告)
こまり - 凄く面白いです！続きが気になります…🤔 (6月14日 5時) (レス) id: fd7a7e37b1 (このIDを非表示/違反報告)
七粍(プロフ) - きーち1さん» お返事遅くなりました…！コメントありがとうございます^^*おかわりどうぞ！！！(笑) (2022年3月27日 21時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
きーち1(プロフ) - 展開、設定めちゃくちゃ好きです！！ご馳走様です！！続き早く読みたいです！！おかわりください！！！！！ (2022年2月28日 6時) (レス) id: a03c85b354 (このIDを非表示/違反報告)
微々(プロフ) - フランとベルさん» ありがとうございます〜！！^^*私もサクサク更新できるように頑張ります…！ (2021年11月18日 11時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：オウリ | 作成日時：2020年11月29日 23時
