標的95 ページ2
私の体が、ピタリと抵抗を止める。
「ックソ!あのガキ、どこへ行きやがった……!?」
「おいバカ、口には気をつけろ!A様はまだそう遠くへは行ってないはずだ。何としても探し出せ!」
遠くなっていく足音を聞きながら、息を殺す。
酷使されていた心臓は、不自然なほど急激に落ち着きを取り戻していった。
背後に感じる、どこか懐かしい気配。
視界の端にかかる、綺麗な長い髪。
──間違い、ない。
追手の姿が完全に見えなくなり、押さえる手が緩められる。
ようやく顔を上げた私は、銀色の眩しさに目を細めながら、小さく息をもらした。
「……お前だけには、言われたくない……」
静かにしろ、なんて。
あぁ?と眉間にしわを寄せるその表情は、10年経っても変わらず鋭いまま。
「久しぶり……になるのかな」
「ハッ。元気そうじゃねーかぁ、クソガキ」
髪をかき上げ、スクアーロは不敵に笑った。
そんな私たちの頭上で、ぐるぐると飛び続けている蝶。
……忘れてた。私はあれを追って、ここまで……
ぼんやりと見上げる私をよそに、スクアーロは取り出した小箱を開ける。
途端、花に吸い寄せられるかのように、蝶は箱の中へと消えていった。
「気になってたんだけど、何なのそれ」
「んなことも知らねーでここまで来やがったのか。10年前と入れ替わってるってのは、どうやら本当らしいなぁ」
やれやれと肩をすくめる仕草が、若干オッサンくさいのは黙っておこう。
スクアーロが箱をしまうのを、そんなことを考えながら見つめる。
気が抜けたからか、私は思わずあくびをした。
「とにかく、だ。落ち着いたら、とっととここから──」
「あ、うん。待っ、て……あ、れ、」
ジャケットを翻したスクアーロを追いかけようと、踏み出した一歩が──重い。
足だけじゃない。全身が、意識、が……
そこでようやく、異変に気がつく。
かすみ出した視界に目を擦れば、すらりと伸びたスクアーロの腕の先に、何やらうっすらと青色を捉えた。
目を凝らそうとしても、強制的に落ちてくるまぶたがそれを遮る。
「す……く、ぁ……」
「ッゔぉい、何ふらついて──あ」
ぐらぐらと舟を漕ぎだした私を咄嗟に支えたスクアーロが、突然何かに気付いたように声をもらした。
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オウリ(プロフ) - こまりさん» ありがとうございます~!近いうちに続編公開するのでお待ちください! (6月14日 12時) (レス) id: df42654abf (このIDを非表示/違反報告)
こまり - 凄く面白いです!続きが気になります…🤔 (6月14日 5時) (レス) id: fd7a7e37b1 (このIDを非表示/違反報告)
七粍(プロフ) - きーち1さん» お返事遅くなりました…!コメントありがとうございます^^*おかわりどうぞ!!!(笑) (2022年3月27日 21時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
きーち1(プロフ) - 展開、設定めちゃくちゃ好きです!!ご馳走様です!!続き早く読みたいです!!おかわりください!!!!! (2022年2月28日 6時) (レス) id: a03c85b354 (このIDを非表示/違反報告)
微々(プロフ) - フランとベルさん» ありがとうございます〜!!^^*私もサクサク更新できるように頑張ります…! (2021年11月18日 11時) (レス) id: d69433a459 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:オウリ | 作成日時:2020年11月29日 23時