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「いや違うよな。Aに無理させてる俺も最低だな」
時間の感覚がなくなって、血の気も引くような寒気が私に襲い掛かった。
優太さんの言葉を理解しながら、その目をちゃんと見つめた。
優太さんの瞳は怒りなど少しも含んでいなかった。
私を責め立てるような鋭さなんてものはない。
おそらく最初からなかった。
ただ、苦しそうに私を捉えていた。
さっきから瞳が揺らいでいたのは何かしらの感情を抑え込むための水分量が増えていたからなのかもしれない。
きっといつの日か私も紫耀をこんな風に見つめていた。
優太さんと過去の自分が重なって咄嗟に手首を掴んでいた。
「離せって。
なんでAが泣きそうになんの…泣きたいのは俺の方」
こんな状況だから当たり前だけど、そこには柔らかな笑顔なんて存在しなかった。
初めてだった。優太さんがこんなにも悲しそうな表情を見るのは。
何も言えずに固まっていると、
優太さんが言うことを聞かない私の手をほどいた。
振り払わないところに優しさが表れているのかな。
けどきっと、優太さんは私に優しいって思ってもらいたいわけではないんだと思う。
「ごめん。言いすぎた…。頭冷やしてくる」
ベッドから降りて優太さんはそのまま窓を開けてベランダへと出てしまった。
10月。冬とは言えない時期ではあるけどそれでもこの時間は冷え込む。
ここから私が消えれば優太さんは部屋に戻ってこれるんだ。
反省するのは私の方。
自分がどんな顔をしているか、どんな気持ちでいるかも分からないまま私は早足で優太さんの部屋から抜け出した。
帰ります。とか
ごめんなさい。とか
なに一つちゃんと言えなかった。
最低だ。
最低。
さっきからずっと頭に浮かんでいたのに正確に認識するのが怖かった言葉。
今の私にぴったりな言葉だった。
何から何まで、どうして私ってこんななんだろう。
“紫耀のことが忘れられなくて辛いなら俺を利用すればいいって思ってたよ”
私がしてることはそういうことだった。優太さんの優しさを利用して紫耀への想いから逃げようとした。
一緒じゃん…こんなの。
どうして気づかなかったんだろう。
私がしようとしてたことって、いやもう既にしてしまっていたことって
根本的には紫耀と一緒なんだ。
自分を好きでいてくれる人に甘えて現実逃避をしようとしてるだけ。
最低だ。
私は優太さんのことをずっと傷つけていたんだね。
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作者名：來
| 作成日時：2020年12月13日 19時
