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＊
冷えた空気を深く吸い込んで同じように吐き出した。
さっきまで抜け切らなかったアルコールが急速に蒸発するのような感じがした。
バタン
その音でAが帰ったんだと分かった。
今すぐ追いかけるべきだと思う。
こんな夜遅くに一人で歩かせるなんてよくない。
頭では分かっていても、Aを好きだという感情もまだ溢れていても、体が動かなかった。
引き止めたところでなんて声を掛けていいのかが分からないから。
部屋の中に戻ると、ベランダにいた時よりも寒く思えた。
きっと虚しさが原因だ。
取り返しのつかないことをしてしまった。
Aを自分のものにしようとした罰が当たったんだ。
紫耀が体調の悪いAを抱きかかえる光景がずっと頭に残っていた。
それを目撃した日の自分の感情は今でも忘れられない。
楓ちゃんからAが倒れたこと、それでたまたま紫耀が保健室まで運んだということ、
ざっと教えてもらってAを心配するのと同時に悔しさが芽生えた。
なんでそんなときに助けてあげられるのが俺じゃないんだって。
好きな子の側にいられなった悔しさ。
けど多分、Aの側にいるのが紫耀じゃなかったらここまで悔しさに苛まれることはなかったんじゃないかって。
Aと少しずつ触れ合って、キスをして一歩ずつ恋人という関係に近づいていたと思っていた。
けどやっぱりAの瞳の奥に、頭の片隅に、心のどこかに紫耀が居続けていることは分かっていた。
だからこそあの日見た、一つ一つの光景を忘れられない。
楓ちゃんから話を聞いてしばらくしてから俺は保健室へと向かった。
心配なのは当たり前だけど、Aの姿を見て安心感を得たかった。
けどその求めていた安心感は一欠片も手に入れることはできなかった。
Aが泣いていたからだ。
なんで泣いているのかは今だって分からない。
けど、紫耀と離れると決めてから俺の前では涙を見せなかったAが泣いているんだ。
それも紫耀に助けてもらった後にだ。
だからその涙の原因は紫耀だと思うのが筋だった。
あぁやっぱりな。って。
消えないどころか大きくなっているんだろうな。紫耀の存在は。
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作者名：來
| 作成日時：2020年12月13日 19時
