其の九 ページ10
ぺらり、と国木田が出したのは茶屋で太宰が渡したと思われるメモ。
『…「十五番外の西倉庫に虎が出る。逃げられぬよう周囲を固めろ」…一番の要点が抜けてるし』
メモを読み上げたAは眉をしかめる。その様子が不満だと云うように太宰が唇を尖らせる。
太宰「ええ?実に簡潔で善いメモじゃあないか」
国木田「こんな情報が欠落したメモを寄越すな!お陰で非番の奴らまで狩り出す始末だ。皆に酒でも奢れ」
くるりと国木田が踵を返せば、月の逆光で見づらいが三つの影が此方へと歩いてくるのが見えた。
??「なンだ、怪我人は無しかい?つまんないねェ。」
一番初めに聞こえたのは女性の声。短い黒髪に金の蝶の形を模した髪飾りを光らせて歩いてくる。
『与謝野さん。さぁ、この男の子が怪我をしている可能性はありますよ。あと、彼の健康状態を後で見てほしいです』
与謝野「そうかい?なら診ておくよ。」
与謝野と呼ばれた彼女は敦に近寄り、興味深そうにしげしげと眺めている。
??「はっはっは、中々できるようになったじゃないか太宰!まぁ、僕には及ばないけどね!」
場に似合わない明るい笑い声を響かせながら太宰に駆け寄る男
太宰「はは、いくら私と謂えども乱歩さんにはいくつになっても勝てませんよ」
乱歩「僕に勝とうなんざ一〇〇〇年、いや一〇〇〇〇年早い!」
太宰の言葉に乱歩は当然というような表情をしながら返した
そして、最後に入ってきたのは一番背丈が低く、麦わら帽子をもった少年。
??「でも、そのヒト如何するんです?自覚はなかったわけでしょ?」
国木田「賢治の云うとおりだ、どうする太宰?一応区の災害措定猛獣だぞ」
太宰「いい質問だね、国木田くん、賢治くん!」
二人からの質問に太宰はニッコリと笑う
賢治「えへへ」
太宰「実は、もう決めてある。」
ちら、と太宰は敦をみて敦の自己肯定感の低い発言を思い返しつつ口を開いた。
太宰「うちの社員にする。」
『…は?』
しん、と倉庫中が静まり返る。賢治がおおー、と小さく感嘆の声を漏らすがそれだけ。
『…なんて?』
Aが信じられないという顔をしながら再度尋ねれば
太宰「え?だから、うちの社員にするって」
「『…はあああああああああ!?」』
探偵社員の悲鳴…主に国木田とAの悲鳴が平和なヨコハマに木霊した。
此れは、中島敦を中心とした物語の序章の序章に過ぎない。
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作者名:怜 | 作成日時:2023年11月2日 16時