羽が9枚 ページ12
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田中と西谷が本当にマネージャーを連れてきたのに対して、いまだに信じられないとでもいう9ような顔をしている2年生。
それもそうなるだろう。田中と西谷は、休んでいる清水に対して｢愛しの｣と言っていたのだから。
マネージャーさん、大変そう。お疲れ様です。と、会ったこともない、見ず知らずの先輩マネージャーさんに労りの言葉を送るA。ただでさえ運動部のマネージャー業は疲れる。そこにさらにストレスとして積み重なりそうな二人。とてもしつこそうだしめんどくさそうだ。絶対やりたくない、Aは改めてそう思った。
彼女はそんなことを考えつつ、なのに引き受けた私はどうかしている、と心の中で自虐的に笑った。
『あの、すみません』
Aは縁下に教えられた主将さんに話しかける。いきなり声をかけられてビックリしたのか、彼は魂が戻ってきたような顔をしている。
｢え、あ、ああ。えっと…君が……｣
『はい。田中と西谷にマネージャーを頼まれました、1年の片桐です。』
｢そうか、いきなりで悪かったな。えっと…｣
心配そうに頭をかきながら主将さんはAに聞く。
｢あいつら、変なこと言ってなかった？｣
変なこと、とはきっとマネージャーさんに対してだろう。そう思い、Aは即答した。
『どこからが先輩のおっしゃる「変なこと」かは存じ上げませんが、言ってました。マネージャーさんに対して｢愛しの｣とか｢あの潔子さんが｣とか』
すると、ああ〜、やっぱり……とため息をつきながら顔を会わせる2年生。
｢あ、おい大地！｣
銀髪の先輩が主将さんに声をかける。｢大地｣と呼ばれた主将さんが「どうした、スガ」と返す。
｢俺ら自己紹介してないべ…｣
スガ、と主将さんに呼ばれた銀色の癖毛に左目の涙ぼくろが特徴的な先輩が主将さんに言う。大地、と呼ばれた主将さんは「あぁ、そうだな」と返す。
｢あ、ごめんね、片桐さん。改めて自己紹介をこっちもしたいから、全員集めて、もう一回自己紹介してもらってもいい？｣
Aがわかりました、と返すと、主将さんが｢集合!!｣とよく通る声を出した。田中と西谷はすぐに反応したが、他の1年生はいまだに驚きが抜けてないのか、少し遅れて反応した｡
｢片桐さん、前に出てきて。｣
『はい』
もう一回自己紹介よろしく。声をかけられ、バレー部員の方を向いた。
これから1週間、Aにとっての地獄にいる、地獄の住民たちの顔は見ずに。
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作者名：七瀬月華 | 作成日時：2021年7月29日 15時
