羽が22枚 ページ28
.
いつの間にか来た最後の日。
Aに未練はないが、百合が「なんで辞めちゃうの!?」とうるさかったから、なだめるのが大変そうだ。
最後の部活の時間、全員集まっているところで伝える。
『今日で約束の1週間です。ありがとうございました。』
自己紹介のとき同様、深く頭を下げる。そしてまた、数秒後、頭をあげた。
「あぁ、こちらこそありがとね。助かったよ」
「しっかし、よく働いたな〜、お疲れ様。」
『お疲れ様です。ありがとうございました。』
澤村と東峰が優しそうな顔をして、Aに話しかける。それに彼女も礼を述べながら頭を下げていた。
「ん〜…あっそうだ!なぁなぁ、このままマネージャー、やらないか!?」
西谷が言い放った一言。たった一言なのに。時が止まったかのように思えた。Aの体は、石化したかのようにピシッと音を立てて固まる。
「おお!いいな!どう…………」
田中が西谷の意見に賛成し、どうだ、と聞こうとする。しかし、Aは田中が言い終わる前に遮った。
Aの中で、返事はもちろん「No」一択だ。考えるまでもなかった。
『約束は1週間です。やりません。』
表情ひとつ変えずに答える。
「そう言わずに!」
『嫌です。』
「頼む!頼むよ!」
『無理です。』
彼女自身でもどんどん声が低く、冷たく固くなっていくことがわかる。西谷と田中はそれに気づかず、必死に
「Aがマネージャーやってくれたらきっと清子さんが喜ぶんだ!」
「清子さんのためにも!」
『知らない。そもそも私はその「清子さん」を知らないし。』
彼女はだんだんとめんどくさくなってきて、早口で拒否の意を伝える。
『マネージャーの仕事が大変なのは知っています。今回、改めて仕事をしてみて実感しました。それでも、約束は約束です。やりません。』
「まあまあ落ち着いて。やらないって言ってるんだから……」
澤村が仲裁に入る。
「でも、Aちゃんも1度考え直してくれない?」
どうやら菅原は田中たちを後押しするようだ。確かに、Aがいた方がメリットも大きいのだろう。それは、澤村も、A自身もわかっていた。
『残念ですが、考えるまでもありません。やらないと決めましたのでやらないです。』
「「お願いだ!マネージャーやっ……」」
『しつこいっ!!』
諦めの悪い田中と西谷に、彼女は思わず、声を荒らげた。
198人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:七瀬月華 | 作成日時:2021年7月29日 15時