銀魂 光翼鳥の剣９ 月下乱舞 上

第４７話　偽りの姿 ページ47

「・・高杉、あの時の事を覚えているか？」

桂は妙に穏やかな声でそう尋ねる。

「いつの事だ」

高杉は背を向けたまま、簡単に問い返した。

「坂本と初めて会った時の事だ。あの時もお前と銀時は喧嘩をしていたな」

桂の言葉に、高杉は僅かに振り返る。

眉間には、いきなり何だ、とでも言いたげにしわが寄っていた。

桂はそんな彼に構うことなく続ける。

「確かあの時、Aはお前の味方をしていた。それで銀時が更に騒いで・・・。

　あの時の奴の顔は忘れられない程酷かったな。まあそれでも、その後で船酔いした坂本にお前と

　二人して吐瀉物をかけられていた時よりはマシだったが」

「・・・・・」

高杉は何も返事をしなかったが、桂は尚も続けた。

「あと・・あの時の喧嘩も酷かった。いつか行った遊郭でお前たちが同じ娘を指名した時だ。

　その娘の声がAに似てたとかなんとか・・・・・。だが、喧嘩ばかりしてるくせに

　考えることは同じだったな。あの缶蹴りの時は驚い・・・た・・・・？」

桂は言葉の途中で首をかしげる。

何かを考え込むような表情だ。

「・・・おい、高杉。あの時缶蹴りしようと言い出したのは誰だったか覚えているか？」

「・・・・・お前ェ・・・一体何がしてェんだ」

高杉は桂を静かに睨み付ける。

このような思い出話ばかりして、桂は何がしたいのだろうか。

苦しくも楽しかったあの日を高杉に思い出させる事で、説得でもしようというのか。

だとしたら、それは無駄な事だった。

桂が浮かべる笑みが、徐々に消えていく。

「そして・・何だかんだ言って、お前が一番Aにアプローチするのが上手かった。

　いつも俺たちを焦らせて・・・・・・・・だから、俺はお前が嫌いだ。今も昔もな」

やがて、桂の口元から完全に笑みが消えた。

「・・・だが、仲間だと思っている。今も昔もだ」

桂は少し悲しげな声で尋ねる。


「いつから違った・・俺達の道は」


弱い風が、彼らの髪を揺らした。

やがて、風は美しい蒼穹に呑まれて消えていく。

高杉は低い声で答えた。

「さァな」

「・・・・・・・・そうか」

桂は何か確信を得たかのような表情で頷く。

「・・それなら、最後に一つ聞かせてくれ」

彼の目が冷たく光った。

それは、先程のAと同じ目だった。

手がゆっくりと刀の柄に近づいていく。

桂は鋭く低い声で尋ねた。

「貴様・・・・一体何者だ」

男の指先がピクリと動く。



「高杉をどこへやった？」

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