第13話『真夏の雪』 ページ3
早朝にもかかわらず、陽炎がユラユラとゆらめいている。
今日は真夏日の予報で、外に出たとたん、セミの声が洪水のように押し寄せてきた。
前を歩く、華奢な背中。
その背中はいつだって少しだけダルそうに見える。
「玉森くん!」
名前を呼ぶと、玉森くんはゆっくりと足を止めた。
「・・あの、昨日は本当にありがとう」
「おはようございます」
「・・・おはよう」
「一日の始まりと終わりは挨拶です」
「あ・・・ごめん」
勝ち誇ったように、玉森くんが笑う。
こんなに暑いのに、玉森くんは少しも汗をかいていない。
「・・・・玉森くん・・・」
「ん?」
本当は挨拶になんてこだわらないくせに。
本当は挨拶なんてどうでもいいくせに。
本当は・・・・・昨日のことに触れさせないように気遣ってるくせに。
「・・・いつも気を遣わせてごめん。私の方が先輩なのに、いつも助けてもらってばっかりで恥ずかしい・・・」
もうそれ以上、玉森くんの顔を見ることができなかった。
だって、どんな表情をすればいいのか、私にはわからなくなっていたから。
「土屋さん」
「・・・何?」
「これからも助けていい?」
下を向いたまま、黙って首を振る。
「・・・そっか」
玉森くんは、そう言って歩きだす。
私はその場に、しばらく立ち尽くしたままだった。
108人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ