第12話『好きということ』 ページ2
「大変だったんだって?」
私の部屋に入るなり、北山くんはそう言った。
会社での出来事を玉森くんに聞いたらしく、出先からそのまま様子を見に来てくれたらしい。
「何で俺に言わなかったんだよ」
「だって北山くん、あの後取引先と打合せで外に出てたから」
「悪かったな、力になれなくて」
「そんなことない。私が書類をきちんと管理できてなかったから」
「いや、俺のせいだ。佐藤の気持ちなんとなくわかってたのに、気づかないふりしてたんだ。その矛先がAに向いたってことだもんな。ほんとにごめん」
「北山くんは全然悪くいよ。正直佐藤さんには腹が立ったけど、佐藤さんに北山くんの彼女だってことを認めさせられない私も力不足だって反省したし」
「そんなことで反省するなよ」
そう言って北山くんが私の腕を強く引く。
抱きとめられた北山くんの腕の中は、信じられないくらい温かかった。
「ごめん。いつも遅くて」
「え?」
「お前が困ってることに気づくのは、いつも玉森の方が少し早いから」
北山くんの胸に顔をうずめながら、黙って首を振った。
「好きだよ?」
私を抱きしめたまま、北山くんはそう言った。
「好き」という気持ちは、通じ合えばこんなにも心地いいのに、一方通行だと暴走してしまうこともきっとある。
大きく膨らんだ気持ちは、どこへ行けばいいんだろう。
そんなの自分ではわからないから、気持ちを制御できなくなる。
佐藤さんのこと、腹が立つのに憎めないのは、私もその気持ちを知っているから。
「北山くん、失恋したことある?」
「そりゃあるよ」
「私も」
「ふーん。そいつ見る目ないんだな」
「佐藤さんの気持、ちわかるって言ったら傲慢なんだけど、私も知ってる気持ちだと思う」
「・・・・きっとみんな知ってるよ。誰かを好きになったやつなら。でも、我慢しなくちゃいけない気持でもある」
「そうだね」
北山くんはすごいな。
ただ、優しいだけじゃなくて、温かい厳しさを持ってる。
「私、今、北山くんのこと、素敵な人だなって思ってる」
「俺は素敵だよ」
耳元で、北山くんがくすくすと笑う。
私は何だか胸がいっぱいになって、北山くんの胸の中で泣いてしまった。
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