第12話『好きということ』 ページ1
「佐藤さん」
「・・何?」
「昨日、佐藤さんに渡したよね?」
「言いがかりはやめてくれない?私は受け取ってない」
「・・・・私のことが嫌いなのはわかるけど、こんなことして何になるの?」
「だから、私じゃないって言ってるでしょ?」
佐藤さんはそう言って、逃げるようにその場を去って行った。
なんでこうなるかな。
私が北山くんにふさわしい相手じゃないから?
悔しい。
悲しい。
押し寄せる感情の波にのまれそうで、その場に立ち尽くしたまま、動くことができない。
「人を信じすぎちゃダメだって言わなかったっけ?」
「・・・玉森くん」
「俺だったらこの状況で、佐藤さんに大切な書類任せないよ。何されるかわかんねーじゃん」
「・・・・そうだね」
「今日は素直だね」
「反論する気力もないの」
「かわいそうに」
玉森くんはそう言いながら、持っていた書類で私の頭をでポンとする。
「佐藤さんが隠してたから取り返しといた」
「え?」
「佐藤さんに書類預けてんの見てて危ないなぁって思ったから、佐藤さんつけてみた」
「・・・玉森くん」
「探偵業向いてるかも。気配消すの得意だし」
「・・・玉森くんは目立っちゃうよ」
「かっこいいから?」
「・・うん」
「拍子抜け。簡単に認めないでよ」
「玉森くんはかっこいいよ。いつも冷静で、正しい判断ができる。私はダメ。少しも成長しないの・・・・だから書類一つ満足に管理できなくて、後輩のあなたに助けられてる」
いつもそう。
爪が甘くて、最後はいつも失敗してしまう。
「騙すより騙される方がいいって、小学校の先生が言ってた」
「え?」
「俺はいつも騙す側だからきっと悪い子だよ。土屋さんはいい子」
「マヌケなだけじゃない」
「ううん。いい子だよ?」
そう言って、玉森くんは微笑んだ。
いつもの冷笑ではなく、その笑顔にはちゃんと温度があった。
「・・・・そんなふうに笑わないで」
「どうして?」
「泣いちゃいそうだから」
「泣かそうとしてんだよ」
「・・・・やっぱり最後は意地悪だね」
「そうだよ。魔性の男だから」
得意げな顔をするから、思わず笑ってしまう。
こんなふうに優しくされてはいけないのに。
「・・・玉森くん、ありがとう」
うなずいて、玉森くんは私に背を向ける。
玉森くんが私を気にしなくていいように、もっと強くなりたい。
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