綿菓子と香辛料 2

55 (玉森くん) ページ6

インターホンが鳴ったから、俺は急いでモニターを確認した。




「・・・何だ、宮田かよ」





Aかもしれないなんて思った自分が恥ずかしくて、カッコ悪くて、少し可哀想だ。





「・・・何しに来たの？」




そう言って苦い顔をする俺に、宮田はニコニコと笑いかける。




「どうしてるかなって思って」





「別にどうもしない」





「Aちゃんがいなくなって、どうにかなっちゃってんじゃないかって心配で」





「余計なお世話」




「お邪魔します」





扉を閉めようとする俺を制して、宮田は無理やり部屋の中に侵入してきた。





「え？何これ。めっちゃ散らかってんじゃん」




「別に普通だろ。男の独り暮らしなんてこんなもんだよ」





「玉、綺麗好きなのに。こんなに散らかってんの見たことないよ」




「うるせーなぁ」







失恋という概念がなかったから、初めての経験に、少しも心が追い付かない。




Aと過ごした時間から全然動けないのに、日々はすごいスピードで過ぎていく。





「宮田」





「ん？」





「A、元気？」





「実家に帰っちゃったんだ。玉と別れてから」






「え？」





「どうして別れたの？」





「わかんねーよ。ただ別れたいって、そればっかで」





「Aちゃん、俺たちにも教えてくれなかったんだ。玉と別れた理由」







何にでも理由は必要だ。





人と別れるのにも理由は必要だし、あらゆる面接で志望動機も聞かれてきた。







「腹立つなぁ、あいつ」





「・・・玉」






「俺、誰かにこんなに振り回されたの初めてだ」






理由が欲しい。




別れたことに意味を見つけたい。





そうじゃなきゃ、俺は前には進めない。






「宮田」





「ん？」





「振られたら、諦めなきゃなダメなの？」





「どういう意味？」




「あいつに言われたんだ。相手が別れたいと思ったら、そこで関係は終わりなんだって。別れるのは、片方の意思で決められるって」





「子どもみたいなこと言うなよ。それくらい自分で考えろ」





「わかんないんだよ！初めてだから・・・初めて、人を好きになったから。どうしていいか全然わかんない」




「諦めたくないの？」





「・・・・・諦めきれない」





あらゆることに理由は必要なのに、俺は理由なく、君のことが好きなんだ。

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