綿菓子と香辛料 2

79 婚姻届と香辛料 ページ30

お姉ちゃんに呼び出された私と玉森さんは、ダイニングテーブルに座らされて、さっきからお姉ちゃんに感謝の強要を受けている。



「私がお父さんとお母さんに根回ししたんだからね？玉森くんが結婚するとかわけのわからないこと言うから」




「・・ありがとう」




「自分の良心に嘘ついて、玉森くんはすっごくいい人だよって言いたくなかったけど言ってあげたんだからね！」




「・・・ありがとう」




「別に頼んでないじゃん」




「はぁ？！」




「玉森さん！口答えしないでください。話がややこしくなるから」




私が小声で注意したのに、玉森さんは全然意に介していないようだった。




「だいたい、本当に結婚するの？何か信じられないんだけど」




「する」



「いつ？」



「今日」



「今日？！」




今度は私が驚く番。




「あ、こんなとこに婚姻届がある」




わざとらしくそう言って、玉森さんは鞄から記入済みのを取り出した。




「あとはお前が書くだけだよ？」




「あ、証人の欄にお父さんの名前書いてある！」




「お父さんも書いてんだから安心してサインしろよ」




なぜだろう。


婚姻届に記入しているはずなのに、借金の連帯保証人にされている気分。




「よし、区役所に出しに行くぞ！」



記入し終わった婚姻届を私から取り上げて、玉森さんは意気揚々とそう言った。



「ちょっと、まだ話終わってない！」




お姉ちゃんが叫んでいるのに、玉森さんは私を連れて、玄関のドアを開けた。




「あ〜あ。こんなことしたらまたお姉ちゃんに怒られる」




「ドンマイ」




「玉森さんのせいですよ！」




玉森さんは「聞こえなーい」って言って、子どもみたいに耳を塞ぐ。




「あ、そういえば、今日って大安ですか？」




「知らない」




「え〜？知らないのに今日出すって言ってるんですか？」




携帯を取り出して今日の六曜を調べると、そこには素晴らしく大きな文字で『仏滅』と書かれていた。




「・・玉森さん、今日、仏滅・・」



「おっ、いいじゃん。仏滅婚」



「やだ」



「何で？」



「何か縁起悪いっていうか・・・」



「おし！その縁起の悪さ乗り越えて行こーぜ」




もう、何を言っても無駄らしい。




区役所まで、あと数100メートル。





素晴らしいお天気に恵まれた仏滅の日、私たちは結婚する。

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