三つ編みをほどかれた日(桃色編)・《2》

66・藤ヶ谷さん ページ18

「ガヤ」



捨てられた仔犬みたいな佇まいで、会社のエントランスで、玉森が俺を待ち伏せしていた。




「玉も今帰り？それとも俺が帰るのを待ち伏せしてた？」




「・・・待ち伏せ」




「へぇ、珍しいこともあるもんだな。一緒にメシでも食う？」




「食わない」




「じゃあ何なんだよ」




「・・・・水上さん」




「A？」




「水上さんと、ケンカした？」




「何で？それ、お前に関係ある？」




「ないけどある」




「ん？」




「今日、目が腫れてたし、一日中様子もおかしかった。俺と莉子が食事に誘ったことが悪かったんじゃないかって、ずっと気になって・・・」




「自惚れてるな」




「え？」




「Aに関すること全てに自分が関係してるとでも思ってる？」





的外れなことを玉森が言うんだったら、きっと俺は笑っていられるのに、図星をつかれるから苛立ってしまう。





「関係してる・・・きっと」



「玉・・さっきから何なの。もうすぐ新堂と結婚するんだろ？新堂のことだけ考えた方がいい。もう、Aに構うな」





余裕のなさが、露呈する。


　


・・・認めるよ。


　


俺は焦ってるんだ。




俺は苛立ってるんだ。




Aの気持ちの全てを、俺に向けることができないから。







「玉」




「ん？」




「お前、何で新堂と結婚するの？」





「・・・それは・・・」




「好きだからって即答できないヤツと結婚すんのかお前は！」






俺は怒鳴ってんのに、玉森は笑う。




何考えてんのかわかんない、ゆるゆるとした笑い方。





「そうだよ？」




「お前・・・





「らしくないことして悪かったな。もう、お節介はやめる」




「玉！」





思わず掴んだ襟ぐり。


玉森は表情一つ変えない。








「殴ってもいいよ？俺が最低な人間だってこと、俺が一番知ってるから」






見上げるように睨んだ玉森の瞳は、ゾッとするほど、寂しそうだった。

66→←65

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す