61・玉森先輩 ページ13
莉子の父親が用意した部屋に、一週間前から一緒に住み始めた。
清潔に整えられた部屋の中で、俺はどんなふうに立ち振る舞えばいいのか、いまだにわからないままだ。
「すごいな、この部屋。Aはそそっかしいから、やたらと装飾とか触るなよ?」
ガヤの言葉に、水上が小声で反論した。
俺が思うよりずっと、二人の距離は縮まってる。
どうして俺じゃないんだろう。
どうして水上が笑いかけるのはガヤなんだろう。
俺から水上を引き離さなければならない現実と、未練がましく水上を求めてしまう自分の本音に、心が千切れてしまいそうなくらい、苦しい。
「私ね、ずっと水上さんに聞いてみたいことがあって」
食事の手を止めて、莉子が唐突にそう言った。
「私に?」
「うん。裕太と水上さんって、同じ高校だったでしょ?高校生の頃の裕太の話、ずっと聞きたいと思ってたの」
俺とは違って、水上は困惑を隠すのが下手だ。
不安げに下がる眉は、高校生の時から少しも変わらない。
「水上さんは俺のことなんか知らないって。学年も違うし」
「嘘。裕太は絶対目立ってたでしょ?」
「そんなことないよ。高校時代の話なら、今度ゆっくりしてあげる」
それでも引き下がらない莉子に、水上はかすれるような小さな声で「目立ってました」って、そう言った。
「みんな憧れてて・・だけど、みんな近づけなかったです」
「それって、水上さんもってこと?」
「・・私は・・
「もういいよ。水上さん、もういいから」
いちばん、近くにいた。
たった1年の短い時間、水上は、誰よりも俺の近くにいたんだ。
「・・じゃあ、Aは?」
ずっと黙っていたガヤが、俺から目を離さずにそう尋ねる。
「高校生の頃のAの話、玉の口から聞かせてよ」
ある日、俺だけの居場所に突然現れた。
友達がいなかった。
俺のピアスを綺麗だと言った。
俺はいつも君をからかってばかりで、最後まで、自分に芽生えた気持ちに向き合わなかった。
両想いになれるっていうジンクスがあるクッキーを、ずっとバカにしていたくせに、最後のひとかけらを君の口に入れたのはどうしてだったのか、本当は、あの時君に伝えるべきだったのに。
「三つ編みだった」
「え?それだけ?」
「うん。それしか、覚えてない」
水上がうつ向いて、ガヤが心配そうに彼女の頬に触れた。
前にも後ろにも行けず、今日も俺は、身動きが取れないまま。
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mhnon39(プロフ) - そうだったんですね!分かりました!何度もお話読んでます^^他のお話が読めるまでお返事お待ちしております!頑張ってください^^ (2020年6月10日 20時) (レス) id: f1d97944f4 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - 海さん» 悲しい展開が続いていますが、最後までお付き合いくだされば嬉しいです(*^^*)メッセージありがとうございます。1日に数件しか返信できておらず、パスワードをお送りするのは遅くなると思います(><)申し訳ありませんm(._.)m (2020年6月10日 17時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
海(プロフ) - とっっても切なくて胸が苦しいです!マキさんの書く作品本当に面白くてだいすきです^^メッセージの方も送らせていただいております^^これからも更新楽しみにしています。 (2020年6月9日 20時) (レス) id: f1d97944f4 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - 玲さん» 新堂さんヤバいですよね!女子の嫌なところをグツグツ煮詰めて出来上がったような仕上がり笑!3人を可哀想にしたててるのは私なんですが、可哀想( ;∀;)って思いながらかいてます。結末が見えなくてある意味泣けてきます笑! (2020年6月5日 22時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
玲(プロフ) - なんか、、新堂さん以外の3人が3人共良い子ですね。そのおかげでなのか新堂さんの悪役さが際立っていてなんとも良いです。現実に居たらぶっ飛ばしてるかもしれませんが(笑)3人は3様の切なさがありますね。誰も悪くない。悪くないから苦しい。こういう展開大好き! (2020年6月4日 20時) (レス) id: b7c4bcac2b (このIDを非表示/違反報告)
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