Luv Bias ページ1
最終電車は、閑散としていた。
こんな時間までバイトをしていたのは久しぶりだ。
電車に揺られながら、私は今にも眠ってしまいそうだった。
明日、大学の講義に間に合うように起きれるかな。
もう、いっそのことさぼってしまおうか。
そんなことを考えながら、遠のきそうになる意識をつなぎとめるのに必死だった。
「・・・ねぇ。ねぇってば」
「・・・え?」
視界に、ぼんやりと男の人の顔が映っている。
電車は、いつの間にか止まっていた。
「降りなきゃ」
「・・あの・・」
「終点!」
「え?!」
腕を掴まれて、私は引きずられるようにして電車を降りた。
「・・・ここ、どこですか?」
「紅葉台」
「紅葉台?何で紅葉台に・・・」
「寝てたからじゃない?どこで降りるつもりだったの」
「・・港坂」
「歩いて帰れる距離じゃないね」
「・・・はい」
「タクシー使ったら?」
「そうします・・・・・あ、でもお金ないんだった」
「貸してあげようか?」
「そんな!めっそうもない」
「歩いて帰る気?危ないよ」
「でも・・・」
どうしようか考えあぐねていると、鞄の中で携帯が振動した。
画面に表示された名前に、心から安堵する。
『もしもしA?』
「太ちゃん?」
『お前、今どこにいるんだよ。おばさんがまだ帰って来ないって心配してるよ?』
「電車で寝ちゃって、紅葉台にいる」
『紅葉台?終点じゃん』
「お金もないし、歩いて帰っ・・・
『何言ってんだよ!危ないだろ。タクシーで帰ってこい』
「でもお金・・・」
『家の前で待ってるから。お金は俺が支払うから、今すぐタクシーに乗りなさい』
「・・・うん」
ほっとして、何だか泣きそうになっていた。
「彼氏?」
「え?」
「今の」
「ち・・違います。幼馴染です。私がなかなか帰ってこないから心配かけてたみたいで。・・・あの、ありがとうございました。ちゃんとタクシーで帰ります。」
「そっか。じゃあ、気をつけて」
「はい」
もう一度頭を下げて、顔を上げる。
その時、ようやく親切な男の人の顔をはっきりと認識した。
「気を付けて帰ってね。居眠り終点下車子ちゃん」
変なあだ名を、信じられないくらい可愛い顔で呟いて、その人は帰っていく。
夏の終わり。
真夜中の改札を吹く風が、とても心地よかった。
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えま(プロフ) - マキさんありがとうございます!マキさんのお話が読めるなんて最高すぎます( ; ; ) (2022年10月25日 22時) (レス) id: cc0da72c37 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - マキさん!お久しぶりです(泣)またマキさんのお話が読めるなんて嬉しいです!! (2022年9月26日 6時) (レス) @page5 id: 3bad9f733c (このIDを非表示/違反報告)
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