親切な後輩

第8話『隙間を埋める』(玉森くん) ページ33

「土屋さん、今日のご飯何ですか？」


「え?」



「夕飯」



「帰り道で会った先輩に掛ける第一声がそれなの？」




スーパーの袋を提げた土屋さんは、呆れたようにそう言った。



「・・じゃあ、今日は天気いいですね」



「日が沈んだ後に天気の話する？」



「天気の話もダメなんだ。土屋さんて気難しいんですね」



「私が気難しかったら、玉森くんとはとっくに口きいてないと思うけど」



「何で？」



「・・・自分の胸に手をあてて考えてみたら？」



「あてたよ？」



「それでもわからないなら、そこにそのまま立ってなさい」




先生みたいな口調で土屋さんがそう言うから、何だか宿題を忘れて廊下に立たされているような気持ちになる。




「わかんなくていいや」




考えるのが面倒くさくなったから、土屋さんからスーパーの袋を奪って彼女を追い越す。



「あ、返して」



「じゃあ俺にもごはん食べさせてくれる？」



「どうして私が・・・・」



自分でもわからない。



どうして土屋さんと一緒にごはんを食べたいのか、俺がいちばんわからない。




「土屋さん」



「何？」



「俺って気合いない？」



「うん」



「目に力ない？」



「うん」




「やる気感じられない？」



「うん」



「俺のこと嫌い？」



「嫌いじゃない」



「俺って面倒くさい？」



「うん」



「失礼なやつ？」



「うん」



「じゃあ嫌い？」



「嫌いじゃないよ？」





立ち止まって、土屋さんを振り返る。





困ったような、心配そうな土屋さんの顔。




「何かあった？」




「どうしてですか？」



「さっきから質問ばっかりするから」





部長からひたすら怒られて、俺なりに落ち込んでいた今日一日。




すり減った心を埋めていく、土屋さんの“嫌いじゃない“という言葉。




「嫌いじゃないってことは、好きでもないんだね」




「そうだね」




「土屋さんは北山さんが好きなんだもんね」




「小学生みたいなこと言わないの」




「土屋さん」




「今度は何？」




「俺に、土屋さんのこと好きになって欲しいと思う？」




「思わない」




「ふ〜ん」





俺は、土屋さんに心配して欲しい。




俺のことで困って欲しい。





土屋さんの心の隙間に少しくらい、俺がいたらいいのにって、そんなことを考えてしまう。

第8話『隙間を埋める』(玉森くん)→←第8話『隙間を埋める』(玉森くん)

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す