チョコレートと花束を(Ki)

33(北山さん) ページ33

「北山さん、帰ってたんですね」



バイト帰りのAが、リビングに入ってくるなりそう言った。




「おう。おかえり」



「ただいま」




「甘党の友達に呼び出されてケーキ食ってきた」




「ケーキ？」




「これ、お土産。苺のなんとかってやつ。友達のおすすめ」




喜ぶかと思ったのに、Aは黙ったまま、白い箱を見つめている。




「A？ケーキ嫌いだった？お前も甘いの好きだろ？」




「・・・・チョコレートがいい」




「え？」




「買ってきて？」




「は？」




「チョコレート買ってきて！チョコじゃなきゃやだ。今すぐ買ってきてよ！」




突然泣き出したAに戸惑ったまま、彼女の肩を抱き寄せた。




「どうしたんだよ」



俺の胸の中で、Aは泣きじゃくっている。




「泣いてちゃわかんないだろ？」





「・・・月城さん」





「え？」




「・・月城花織さん・・知ってるでしょ？」





聞き慣れた名前。




何度も何度も呼んだ名前。




どうしてこの名前を、Aが知っているんだろう。





「・・・月城花織のこと、知ってんのか？」





質問には答えずに、Aは、涙に濡れた瞳で俺を見上げた。




「好き？」




「・・・何言ってんの？」




「月城さんのことが、まだ好きですか？」




「前にも言ったろ？俺は振られてんだよ」




「嫌いになったから振ったって本気でそう思ってますか？」



「そうじゃなくても、俺と一緒にいたって、花織は幸せになれなかった」



「そんなの、北山さんが決めることじゃないでしょ？月城さんが決めることだよ」



「・・・もう、いいから」



「よくない」



「A」



「北山さんだもん」



「え？」




「月城さんの幸せは、北山さんなんだよ？」

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