チョコレートと花束を(Ki)

30 ページ30

「お帰り。どうだった？美人と食うメシはうまかったか？」



北山さんはカップ焼きそばを食べながら、私にそう尋ねた。




「・・美味しかったです」




「よかったな」




「うん」




「何か元気なくないか？」




「・・・別に、元気あります」




あの後、月城さんとどんな会話をしたのか、正直覚えていない。



ただ、私は自分の動揺を隠すのに必死で、月城さんにそれを悟られるのが怖かった。





「A？」




「・・・・・あの」




「ん？」




「前に付き合ってた人って、どんな人だったんですか？」




「何だよ急に」




「知りたくなったから」




「知る必要ないじゃん」




「どうして？知りたいです。どんな人だったか」



「はぁ・・・何なんだよ。・・・・ん〜と、だから、何味かわかんねー洒落たスパイスの小瓶並べてたよ」




「料理上手で几帳面な人なんでしょ？」



「上手かったな。几帳面だし、親切で優しかった」



「それに美人？」



「おう。すっげー美人。どうだ？こんだけ聞いたら満足したか？」




「・・・まだ」




「何？」




「・・・どうして別れたの？」




「振られたから」




月城さんが別れを切り出さなければ、今も二人は付き合っていたのかな。




私は伝えるべきなの？




月城さんが、今も北山さんを想っていること。





「振られた時、まだ好きだった？彼女のこと」




「言わない」



「泣いたの？」



「泣くわけねーじゃん」




「後悔した？」




「さぁな」

　


「どうして、別れたくないって言わなかったの？」




「・・・あいつが幸せなら、それでいいから」




”もうおしまい”って言って、北山さんは私の頭をポンポンって軽くたたく。








好きだったから、別れたんだね。





泣きたいくらい好きだったから、




後悔をこれ以上重ねないように、







彼女のために、別れたんだね。






「どうしちゃったの？お前」




「・・・わかんない」




「変な想像するくらい、俺のこと好きになっちゃった？」




「・・・・うん」






北山さんを見上げる私をしばらく見つめた後、彼は呆れたように、だけど優しく微笑んだ。





「お前を幸せにできるといいけど」





私は、北山さんに幸せをもらってもいいのかな。





月城さんの純粋な想いを、もう知ってしまっているのに。

31→←29

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す