チョコレートと花束を(Ki)

20 ページ20

「ちょっとちょっと島谷ちゃん！」


同じ書店で働いているパートの葛西さんが、出勤した私を見るなり駆け寄ってきた。



「あ、お疲れ様です。交代ですよね」



「そうじゃなくて！あんた、タワーマンション住んでるの？」




「え？」



「昨日見かけたから。立派なマンションから出てくるとこ」



「そっか。見られちゃいましたか」



「なぁに？島谷ちゃんこの前までおんぼろアパートに住んでるって言ってなかった？」




「最近引っ越しまして・・」




「あんな家賃高そうなところに？！」



「まぁ、１人で住んでる訳じゃないっていうか・・・



「やだ！まさか同棲？」




「その、まさかです」




「はぁ〜、あんなとこに住んでる男捕まえたんだ。うまくやったわね」




「人聞き悪いですよ！たまたまです。たまたまあんなとこに住んでる人と付き合うことになっただけ」



「ふーん」



何やら言いたげな葛西さんを置いて、私は持ち場につく。




「アルバイトの方ですか？」




「あ、はい！」




お客さんかと思って振り返ると、そこには、私と同じユニフォームを着た女性が立っていた。




「初めまして。今度異動でこちらに参りました社員の月城です」




「島谷です。よろしくおねがいします」




「こちらこそ。ここの店舗のこと、いろいろ教えて下さいね」




月城さんの前にいた女性社員はすごく嫌味な人だったから、月城さんの物腰の柔らかさに思わず感動した。



「美人は優しいって本当だな」







私が野暮ったいと思っていたみんなお揃いのユニフォームさえ、月城さんが着ているだけで数段お洒落に見えた。

21→←19(北山さん)

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す