チョコレートと花束を(Ki)

24(北山さん) ページ24

「北山？」



仕事帰りの歩道で、突然肩を掴まれた。



「あ？・・・あぁ〜！！坂下？！」



「そう！何年ぶりかなぁ。全っっ然変わんないからすぐわかったよ」



坂下は大学の同級生で、卒業以来の再会だった。



「北山、時間ある？飲みに行こうぜ？せっかく会えたんだし」



「あ〜・・・うん、ちょっと待って。先に連絡入れさせてくれ」



「奥さん？」



「いや、俺は独身」



「じゃあ彼女か」



「まぁ、そんなとこ」



「お前、結構マメなんだな」



「そんなことないけどさ、心配かけたくねーなって。年が離れてるせいか、ちょっと過保護気味」



「お前が？！」



「何だよ」



「いや、学生の頃のお前しか知らないからさぁ。過保護な北山なんて、ちょっと笑える」



「うるせーな」




”大学の同級生に会ったから、帰りは遅くなる”



”わかりました”




たったこれだけのやり取りがどれだけ大切か、35歳になった今ならわかる。




「学生の頃さ、そういうのでいっつもケンカしてたもんな」



「ん？」



「花織ちゃんと。サークルの飲み会の時とか、お前全然連絡しなかったから」



「いつの話してんだよ」



「最近まで付き合ってたんだろ？」




「最近って言ったって3年前だよ。あいつ、結婚したんだろ？中学の同級生と」





俺の言葉に、坂下は目を見開く。




「お前知らないの？」



「何を？」



「花織ちゃん、婚約破棄されたらしいよ？」



「は？何で？花織が婚約破棄なんてされるわけねーじゃん」



「俺もそう思ったけど、本当らしいよ？信じらんねーよな。あんないい子」





そうだ。花織はいい子なんだ。



ケンカの原因はいつも俺で、花織が原因だったことは一度もない。




「今、どうしてんのかな？花織」



「気になるんなら自分で確かめろよ」




坂下のもっともな答えに、何も言い返せない。




別れた日、これで彼女は幸せになれると思ったのに。




再燃する胸の痛み。




想い出の中の彼女は、いつだって泣いてばかりだ。

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