10 ページ10
膨大な仕事量を抱える私を置いて、玉森先輩は普通に定時で帰っていった。
捨てられた仔犬みたいに、すがるような視線を投げかけた私を、先輩は華麗にスルーして、爽やかに手を振ってご帰宅なされた。
「・・・信じらんない」
玉森先輩には、良心というものが存在しないんだろうか。
「水上さん、大丈夫？」
見かねた三条さんがそう言って、私の顔を覗き込む。
「私も手伝うわ」
「あ、そんな。大丈夫です！」
「・・・でも」
「俺が手伝うよ」
「え？」
「俺に振り分けられたところは全部終わったから、水上さんの仕事、俺が手伝うよ」
私に救いの手を差し伸べてくれたのは、玉森さんのもう一人の同期の千賀さんだった。
「本当？じゃあ千賀くんに任せちゃっていい？」
「うん。ほら、三条さんは早く帰らなきゃ。旦那さんが待ってるよ」
そう言って微笑む千賀さんの目は、ちゃんと笑ってる。
「じゃあお言葉に甘えて」
三条さんは千賀さんと私の肩をたたいて、速攻で帰って行った。
「三条さん、新婚さんなんだ」
「そうだったんですね」
「うん」
「あ、でもすみません。結果的に千賀さんに迷惑かけてる」
「俺はいいんだよ。待ってる人がいるわけじゃないし。だけど三条さんは、早く帰してあげたいじゃん」
・・・天使？
誰かさんとは全然違う。
見かけは少し派手っていうか、近寄りがたい雰囲気なのに、話してみると、千賀さんはめちゃくちゃに好青年だった。
「あの・・」
「ん？」
「玉森さんは大丈夫なんでしょうか。全然仕事しないんですけど」
「玉森はね、すごいんだよ」
「え？」
「突然大きな仕事取ってきたり、イベントで、ものすごい数の人を集めたり。みんなから一目置かれてんの」
「・・へぇ」
「何かさ、全然敵わないなって、いつも思う」
パソコンの画面から目を離さずに、千賀さんは少しだけため息をついた。
「・・でも・・
「え？」
「でも、千賀さんだってすごいです」
「俺が？」
「来たばっかりの、よく知らない新人の残業に付き合ってくれたり、玉森さんのこと、真っ直ぐにすごいって言えることも。・・千賀さんはすごいです」
困ったように私を見つめて、それから千賀さんは少し笑った。
「ありがとう」
「・・いえ」
私は、この会社で働くことができたことを、とても幸せだと思った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「Kis-My-Ft2」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にかみつば(プロフ) - マキさん» いえいえ。読んでみたいなと思った物から読んでいたので、教えてもらってなかったら後回しにしてしまっていたと思うので、素敵な作品に出会えて嬉しかったです。これからも楽しみにしています。 (2020年7月13日 22時) (
レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかみつばさん» こちらを既に読まれていると勝手に思い込んでいました(>д<)ネタバレでしたね！すみません( ；∀；)この話はなかなか辛いものがありますよね。自分で書いてて可哀想って思ってました笑！ (2020年7月13日 16時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 他小説へのコメントの返信を拝見しこちらも読んでみたくなりました。優しさを優しさと受け取る事が許されない切なさや、婚約パーティーに出席しようと決めた心情などが丁寧に書かれていて引き込まれました。この主人公の女性の心も綺麗過ぎて泣けます。 (2020年7月12日 1時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかはるさん» ありがとうございます(*^^*)切ない気持ちになってくださって嬉しいです！先は私にも全然見えてなくて怖いですが、《2》にも遊びにきていただけたらと思います(^-^) (2020年5月31日 10時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
にかはる(プロフ) - 切なすぎて号泣です！！続きも楽しみにしています！ (2020年5月29日 23時) (レス) id: 1c69577c40 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
