三つ編みをほどかれた日(赤色編)

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「これ、お前にやるよ」



そう言って北山さんが差し出したのは、「吉田屋」と書かれたクリアファイルだった。



「何ですか、これ」




「知らない？吉田屋。肉の吉田屋」



「知らないです」



「これさぁ、ポイント貯めたらもらえんだよ。お前にやる」



「・・・いらない」




「嘘だろぉ？何で！やるって！」




「使いづらいです。何か牛の部位が全面に描かれてるし」





「それ！そこがいいんだよ！」




三条さんへの用事は終わったはずなのに、北山さんは一向に出て行こうとしない。




「ちょっと北山くん、水上さんの邪魔しないで。困ってるでしょ？」




「ん？何で？」





北山さんがキョトンとした顔をして三条さんを見るから、三条さんの苛立ちは増幅してしまう。




「帰りなさい？自分のとこに」




「わかったよ。あ、水上」




「・・・はい」




「仕事終わったら迎えに来るから、ここにいろよ？」




「・・・え？迎えに？」




「うん。じゃあな」





三条班のすべての人をポカンとさせて、北山さんはいなくなる。




吉田屋のクリアファイルを手に持ったまま戸惑う私を見て、玉森先輩は笑った。





「気に入られちゃったな、ミツに」




「別にそんなんじゃ・・・」




「悪い奴じゃないよ」




「・・・わかってます」





完全な失恋を経験した。



だけど、気持ちの全てを消してしまうには、もう少し時間がかかる。




飄々とした玉森先輩の態度。



私の気持ちなんて、何にも知らないみたいだ。




”のこのこついて行ってんじゃねーよ”なんて、もう二度と、玉森先輩は私に言ったりしないだろう。




「玉森くん」




新堂さんの声がして、玉森先輩は立ち上がる。




「メシ、食ってくるわ」




小声でそう呟いて、先輩は行ってしまった。




そういえばつい最近まで、この時間は、キッチンカーに並んでいた。



有り余るお昼休みの時間・・




このもて余す感じ・・




まるで、高校生の頃の、玉森先輩に出会う前の昼休みみたいだ。

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