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会社に戻るという北山さんと別れて、私は駅までの道のりを歩く。
初対面の人と焼き肉を食べるという不思議な時間。
北山さんの偵察は、今日で完了したのだろうか。
「おい!」
聞きなれた声が後ろから聞こえてきて、私は反射的に返事をした。
「はい」
やっぱりそこにいたのは、聞きなれた声の持ち主で、いつも以上に高圧的に私のことを見下ろしている玉森先輩だった。
「お前、三条に俺のこと告げ口しただろ」
「告げ口?先輩が突然消えたのは、誰の目にも明らかでしたよ?」
「そこをうまく誤魔化すのがお前の役目だろ?」
「どうやって誤魔化すんですか」
「変化しろ変化。身代わりの術だろ」
「変化?忍者じゃないんだから」
「お前忍者じゃねーの?ふざけんなよ」
こういうのを理不尽と呼ぶのだと、身を呈して私に教えてくれる玉森先輩。
「疲れてるので帰ります」
「お前、今まで何してたの?」
「・・・食事です」
「一人で?」
「・・北山さんと」
隠す理由はないから、私は正直に答える。
「ミツ?何で?」
「何でって・・
「のこのこついて行ってんじゃねーよ!」
「のこのこって何ですか?私だって、どうしていいかわからなかったのに。私だって戸惑ったのに。先輩は私の気持ちなんて知らないくせに、そうやっていつも理不尽なことばっか言って・・・。もう、いいです。私は先輩にどんなふうに思われても構わない」
情けないほど簡単に、私の感情は爆発する。
玉森先輩は・・・・私の好きな人は、もうすぐ、私とはかけ離れた世界の、美しい人と結婚する。
いくら憧れても、いくら想い続けても、叶わないことなんて最初からわかっていたのに、そのことが、どうしようもなく、苦しい。
「水上?」
「・・・・すみません。あの・・・私、帰りますね」
「家まで送る」
「え?いいです!まだ時間も早いから」
「そんなめちゃくちゃに泣き腫らした顔で電車に乗るのか」
「泣いてないです」
ハンカチで濡れた頬を拭う私を見て、玉森先輩は呆れたように笑う。
「俺が泣かしてんだな」
「違います」
「違わないだろ。帰るぞ」
「一人で大丈夫です」
玉森先輩はスーツの上着を脱いで、無造作に私の頭にそれをかける。
「泣けば?泣き止むまで一緒にいるから」
玉森先輩が作ってくれた小さな空間で、私は思いっきり泣いた。
玉森先輩は、ただ黙って、私の隣にいてくれた。
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にかみつば(プロフ) - マキさん» いえいえ。読んでみたいなと思った物から読んでいたので、教えてもらってなかったら後回しにしてしまっていたと思うので、素敵な作品に出会えて嬉しかったです。これからも楽しみにしています。 (2020年7月13日 22時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかみつばさん» こちらを既に読まれていると勝手に思い込んでいました(>д<)ネタバレでしたね!すみません( ;∀;)この話はなかなか辛いものがありますよね。自分で書いてて可哀想って思ってました笑! (2020年7月13日 16時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 他小説へのコメントの返信を拝見しこちらも読んでみたくなりました。優しさを優しさと受け取る事が許されない切なさや、婚約パーティーに出席しようと決めた心情などが丁寧に書かれていて引き込まれました。この主人公の女性の心も綺麗過ぎて泣けます。 (2020年7月12日 1時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかはるさん» ありがとうございます(*^^*)切ない気持ちになってくださって嬉しいです!先は私にも全然見えてなくて怖いですが、《2》にも遊びにきていただけたらと思います(^-^) (2020年5月31日 10時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
にかはる(プロフ) - 切なすぎて号泣です!!続きも楽しみにしています! (2020年5月29日 23時) (レス) id: 1c69577c40 (このIDを非表示/違反報告)
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