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「初日だし、気疲れしたでしょ?今日はもう帰りなさい」
三条さんがそう言ってくれたから、私は定時で会社を出た。
確かに緊張で身体は疲れていたけど、みんないい人そうで、心底ほっとしていた。
陽気に鼻歌を歌いながら歩道を歩いていると、隣に人影ができて、私のことを追い越して行った。
「・・・玉森先輩?」
思わず声が出て、私は慌てて口元を押さえる。
聞こえていないことを祈ったのに、無情にも、玉森先輩は足を止めた。
「・・・・あの、お疲れ様です。玉森さん」
私のことなど、記憶の片隅にさえないことは、今朝、挨拶をした時に確認済みだ。
「お疲れ様」
「玉森さんも帰ってるんですか?」
「ご覧の通り」
「・・ですね。すみません。・・じゃあ、私こっちなんで」
横断歩道の信号が青になって、私は玉森先輩に背中を向けた。
渡りきってから振り返った先には、まだ、玉森先輩の姿がある。
「水上!」
「・・・・え?」
「もう、三つ編みじゃないんだ」
横断歩道を挟んで、玉森先輩が叫ぶ。
・・・先輩、私のこと覚えてるんだ。
立ち尽くす私を置いて、玉森先輩は帰っていく。
明るかった髪の色を戻して、あの頃より髪の毛を短くしている。ピアスはもちろんしてなくて、スーツのネクタイも緩んだりしていない。
どこからどう見ても、玉森先輩は爽やかな好青年だ。
中身も変わっているんだろうか。
身勝手で強引で暴君めいていた玉森先輩は、跡形もなく消えてしまったんだろうか。
"三つ編み、ほどいた方が可愛いんじゃない?"
そう言って髪を括っていたゴムを、玉森先輩はいとも簡単にほどいた。
あの時の、言い様のない恥ずかしさと胸の高鳴りを、私は今も覚えている。
先輩に三つ編みをほどかれた16歳のあの日。
私は、玉森先輩に恋をしていた。
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にかみつば(プロフ) - マキさん» いえいえ。読んでみたいなと思った物から読んでいたので、教えてもらってなかったら後回しにしてしまっていたと思うので、素敵な作品に出会えて嬉しかったです。これからも楽しみにしています。 (2020年7月13日 22時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかみつばさん» こちらを既に読まれていると勝手に思い込んでいました(>д<)ネタバレでしたね!すみません( ;∀;)この話はなかなか辛いものがありますよね。自分で書いてて可哀想って思ってました笑! (2020年7月13日 16時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 他小説へのコメントの返信を拝見しこちらも読んでみたくなりました。優しさを優しさと受け取る事が許されない切なさや、婚約パーティーに出席しようと決めた心情などが丁寧に書かれていて引き込まれました。この主人公の女性の心も綺麗過ぎて泣けます。 (2020年7月12日 1時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかはるさん» ありがとうございます(*^^*)切ない気持ちになってくださって嬉しいです!先は私にも全然見えてなくて怖いですが、《2》にも遊びにきていただけたらと思います(^-^) (2020年5月31日 10時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
にかはる(プロフ) - 切なすぎて号泣です!!続きも楽しみにしています! (2020年5月29日 23時) (レス) id: 1c69577c40 (このIDを非表示/違反報告)
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