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昼食を終えたらしい玉森先輩が、静かに自分の席に戻る。
私は頼まれてもいないのに、いつもの癖でキッチンカーに並んでしまったから、お昼は自分のお弁当ではなく、トマトスープを食べている。
「俺の顔に何かついてる?」
「えっ?」
「さっきからずっと見てるから」
「いえ、何もついてないです」
「みとれないでよ」
「みとれてないです」
「ふーん」
玉森先輩は、つまんなさそうに頬杖をついて、私の顔をじっと見つめる。
「・・・何ですか?」
「今日は弁当じゃないんだ」
「・・・忘れてきちゃって」
「何で嘘つくの?いつも弁当入れてる袋、目の前にあんじゃん」
「これは・・・・」
「嘘つき」
どうして見逃してくれないの?
私は動揺してるのに・・・
動揺してるから・・・
「ごめん」
「え?」
「それ、俺のでしょ?」
「違・・・
「勝手に食べんなよ。食いしん坊め」
そう言って玉森先輩は、机の端に押しやっていた私のお弁当を取り上げる。
「玉森さん?」
「水上さんが俺の昼飯食ってるから、俺が水上さんの弁当食うわ」
「だって食べてきたんじゃ・・・
「育ち盛りなんだよ」
嬉しいのか虚しいのかわからなかった。
今まで経験したことのない感情が身体の中を通り抜けていく。
いつもみたいに横暴でいて欲しい。
私に気遣いを見せるなんて、先輩が無理やり私との距離を計ろうとしているみたい。
「水上さん」
「はい」
「キッチンカーに並ぶの、もういいから」
「え?」
「明日から、昼飯は外に食べに行く」
「・・・はい」
スープは一向に減らない。
プラスチックのスプーンが、鉛みたいに重く感じる。
「・・玉森さん」
「ん〜?」
「私のお弁当、美味しいですか?」
「全然!」
ニコッて、先輩が笑う。
「・・・酷いですよ!」
「美味しい」なんて言われたら、私は泣いていたかもしれない。
伏せていた顔を、真っ直ぐに上げる。
「明日から並ばないでいいなら嬉しいです。これでお弁当がゆっくり食べられる」
玉森先輩は何にも言わなかったけど、私のお弁当箱は、綺麗に空っぽになっていた。
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にかみつば(プロフ) - マキさん» いえいえ。読んでみたいなと思った物から読んでいたので、教えてもらってなかったら後回しにしてしまっていたと思うので、素敵な作品に出会えて嬉しかったです。これからも楽しみにしています。 (2020年7月13日 22時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかみつばさん» こちらを既に読まれていると勝手に思い込んでいました(>д<)ネタバレでしたね!すみません( ;∀;)この話はなかなか辛いものがありますよね。自分で書いてて可哀想って思ってました笑! (2020年7月13日 16時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 他小説へのコメントの返信を拝見しこちらも読んでみたくなりました。優しさを優しさと受け取る事が許されない切なさや、婚約パーティーに出席しようと決めた心情などが丁寧に書かれていて引き込まれました。この主人公の女性の心も綺麗過ぎて泣けます。 (2020年7月12日 1時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかはるさん» ありがとうございます(*^^*)切ない気持ちになってくださって嬉しいです!先は私にも全然見えてなくて怖いですが、《2》にも遊びにきていただけたらと思います(^-^) (2020年5月31日 10時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
にかはる(プロフ) - 切なすぎて号泣です!!続きも楽しみにしています! (2020年5月29日 23時) (レス) id: 1c69577c40 (このIDを非表示/違反報告)
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