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バイトを終えて、急いで玉森さんのマンションに向かう。
門限の時間が30分延びたから、バイト終わりでも少しだけ会う時間ができた。
「お邪魔します」
すでに帰宅していた彼は、床に座ってテレビゲームをしている。
「バイトの日に来るの珍しいな」
画面から目を離すこともなく、玉森さんはそう言った。
「・・あの、お礼が言いたくて」
「何の?」
「今日、ファミレスでおごってもらったから。友達にもお礼言ってねって言われてて」
「ふーん」
「ありがとうございました。これ、バイト先のケーキです。私の苺食べてたから、ショートケーキ好きなのかなって思って買ってきました。よかったら食べてください」
ケーキの箱をテーブルに置く私を、玉森さんは憮然とした表情で一瞥する。
「あのさ〜」
「はい」
「俺、彼氏面したんだけど」
「え?」
「お前の友達もいたし、いい彼氏とでも思われたかったのかな?」
「あの・・・
「お礼なんかいらないってことなんですけど」
「ケーキ嫌いでした?」
「そうじゃなくて」
玉森さんはゲームの手を止めて、私のことを振り返る。
「俺がしたくてしたことだから」
「・・・え?」
「君に、美味しいご飯を食べさせたかっただけなんじゃないですか?」
なんだかたまらない気持ちになって、私は玉森さんの背中にしがみついた。
「あ、何か背後霊いる。取り憑かれたかな」
「・・玉森さん」
「背後霊ってしゃべんのか」
「・・玉森さんって、やっぱり私の恋人なんですね」
私のこと、きっと好きでいてくれてる。
わかりづらいけれど、時々、ちゃんとそのことを伝えてくれる。
「何を今更」
呆れたような玉森さんの声。
テレビ画面には、よくわからないゲームが映し出されている。
「A」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
降ってきたのは、玉森さんの冷たい唇。
コントローラーを置いて、玉森さんは私の身体を抱きしめた。
「もうすぐ門限?」
「・・はい」
「遅れないように帰らなきゃ」
「・・はい」
「でも、あと少しだけ、くっついてていいかな?」
玉森さんの胸の中で目を閉じる。
こんなに心地いい場所を、私は他に知らない。
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にかみつば(プロフ) - 北山くんのお話を優先して読んでたのですが、こちらも読んでみたらとても面白くてハマりました。三上先生の登場で更に面白い展開になってきて続きが楽しみです。いつも素敵なお話を作ってくださり、公開してくださりありがとうございます。 (2020年7月17日 16時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - marumarusubasubさん» marumaruさんは、もしかして横尾担様でしょうか?もしそうなら一緒です〜\(^^)/こちらが終わったら、書きかけの横尾さんのお話に取り組みたいと思ってます。いくつかお話をかかえてないと頑張れないので、未完がたくさんあるのがたまに傷な私です笑(*´-`)頑張ります★ (2019年9月16日 8時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
marumarusubasub(プロフ) - レスありがとうございます。嬉しいです。すごく読みやすく、特に横尾さんのお話大好きです。個人的に横尾さんのお話熱望ですm(_ _)mこれからも楽しみにしています! (2019年9月14日 20時) (レス) id: 7cd9d44213 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - ちい★さん» 本当に( ;∀;)やっとだったのに。設定的に30年近くかけて、初めて人を好きになったのに。。という、やりきれない気持ちになりました(自分で書いておきながら笑)。皆さんが願ってくださるラストになればいいなと思いながら(私も先は知らないのです)更新がんばります★ (2019年9月14日 15時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - わわかさん» わわわわ(*´-`)私の書いたお話にかわいさを感じてくださってるなんて〜(*^-^*)嬉しいな♪ちょっと今の展開は穏やかではありませんが、ほんわかじんわりなお話に戻れるように苦しい場面を乗り越えたいと思いますp(^^)q (2019年9月14日 15時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
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