綿菓子と香辛料

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「狭っっ」


私の部屋に入るなり、玉森さんはそう言った。



「狭いです。二人の部屋にするには」



「やだな」



「あの、少し宮田さんを困らせたいだけなんですよね？」



「ん？」



「宮田さんがお姉ちゃんと結婚しちゃったから。本気で住むつもりじゃないですよね？」



「本気だけど」



「でも、おかしいです。私の部屋で寝泊まりするなんて」



「寝泊まりだけじゃなくて、着替えもするし、ゲームもするけど」



「じゃあ、近くに部屋を借りたらいいじゃないですか。その方が玉森さんも快適でしょ？」




「やだ。宮田と真野の邪魔したい」




「そんなことに労力使わなくても・・・」



「俺のことは気にしないで。俺もあんたのこと気にしないから」




「気にするし、私のことも少しは気にしてください」




「やだ」





"やだ"ばっかり。




まるで、ワガママな子どもの相手をしてるみたいだ。





「ねぇ」




「・・・はい」




「ベッドのシーツ変えて」




「どうしてですか？」




「俺がベッドに寝るから」




「え？！」




「布団だとさぁ、何か身体がバキバキになるんだよ」




「だから他の部屋を借りてくださいってば！」




「だからやだって言ってんだろ。妹アホなんじゃない？」




私の正論を、無表情で床に叩きつける玉森さん。




シーツは3日に1回交換すると決めていて、昨日換えたばかりだ。



何でこの人に、私の生活のサイクルを狂わせられなければならないんだろう。





「宮田さんが結婚して、悲しかったんですか？」





「さぁ、どうだったと思う？」






玉森さんの中で、宮田さんはただの友達ではなかったんだろうか。




もしかして、玉森さんは、宮田さんに恋をしていたのかもしれない。





そんなふうに考えると、なんだか玉森さんのことが、途端にいじらしく思えてくる。





「シーツ、換えますね」




「話のわかるヤツだな、妹は」





玉森さんは満足そうに頷いて、巨大なキャリーケースを広げた。





「あ、手は出さないから安心して？」




「・・わかってます」




「ちびっこには興味ないから」




・・ちびっこ。





私にはあなたの方がよっぽどちびっこに見える。




「玉森さんだって、私が出会った大人の中で、いちばんちびっこみたいです」





「へぇ。じゃあ、ちゃんとお世話してね」





バカにしたように、玉森さんは笑う。





私が見た大人の中で、いちばん綺麗な、完璧な笑顔で。

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