綿菓子と香辛料

12 (玉森くん) ページ12

風呂上がりに寝室に戻ると、ベッドのシーツがちゃんと取り換えられていた。



俺がこの部屋に住み着いて以来、欠かさずベッドを清潔に整えてくれている。




賢くて従順なペットを飼っている気分。



思わず"お利口だね"って頭を撫でてしまいそうだ。





「もう、寝ますか？お水は？」





「いる」




当たり前のように、Aは俺に水の入ったグラスを差し出した。





「本当にお利口だな」




「え？」




「お前、男に尽くすタイプ？」




「何の話ですか？」




「お手」




「は？」




突き出した掌に、Aは自分の手をのせたりしなかった。




「私は犬じゃありません！」




「そうなの？」




不愉快そうに顔をしかめるAに、思わず笑ってしまう。




「女の子にそんな顔されるの初めてだ」




「玉森さんの周りには寛大な人しかいないんですね」




「お前は心が狭いな」





今度は呆れた顔。




俺の機嫌を伺ったりしない、初めて出逢うタイプの女。





「お前、俺にドキドキしないの？」




「何ですか？！急に」




「いや、しないのかなーって。俺を好きにならないの？」




「すごい自信」




「別に自信があるわけじゃないよ。女の子が俺を好きになるのは、自然の摂理なのかと思ってた」




「そこまで突き抜けられると笑っちゃいます」





俺は真面目に言っているのに、Aは声を上げて笑った。





「玉森さん、やっぱり変です」




笑った顔が、いいな、と思う。




立ったままのAの手を引いて、俺の隣に座らせた。




「Aは俺に、ドキドキしない？」





「・・・玉森さん？」





「しないの？」





「・・・・しますよ？だって玉森さんは男の人だから。何か距離感もおかしいし」





「好き？」




「好きじゃない」




「何で？」




「何でって・・・そんなに簡単に人を好きになったりしないでしょ？」





「みんなすぐに好きだって言うけどな」





「玉森さんも言うの？」





「言わない」





Aを困らせているのはわかっているのに、困らせることを止められない。





「Aばっかずるいな」





「え？」




「俺だってドキドキしてみたい」





「それは私がどうにかできることじゃないでしょ？」




「ケチ」




「はぁ？」




「ブス」




拗ねたふりして顔をそむける。





「玉森さん」





そむけた顔を掌で包んで、Aは俺にキスをした。

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