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玉森さんの新居は、私が逃げ込んでいた公園のすぐ側だった。
「何してんの?入れば?」
「・・・お邪魔します」
通されたリビングには、いくつか段ボールが積み上げられていて、玉森さんが片付けの途中だったことがわかる。
「あの・・・すみません。荷ほどきの最中に」
「うん。すげー迷惑だった」
「ごめんなさい」
「もう終電ないから泊まってけば?」
「・・でも」
「嫌なら引き留めないけど。面倒くさいから」
さっき、キスしたのに。
さっき、好きになってもいいと言ってくれたのに。
どうして玉森さんはこんなに急速に、いつもの玉森さんに戻れるんだろう。
「・・・玉森さん」
「ん?」
「・・私は、玉森さんのことを、恋人だと思っていいんですか?」
玉森さんは荷ほどきの手を止めて、私の顔をじっと見る。
「恋人?」
「・・・はい」
「恋人って、何?」
本気なのか冗談なのかわからないけれど、玉森さんは真顔でそんなことを言う。
「・・私は、恋人としか手を繋ぎたくないし、キスもしたくありません。私は玉森さんのことが・・・あんまり認めたくないけど好きで・・だから、玉森さんに私以外の人と、手を繋いで欲しくないし、キスもして欲しくないし、あんまり仲良くして欲しくないです」
「仲良くして欲しくないって、子どもかよ」
「だって、玉森さんには通じないじゃないですか。それくらいストレートに言わないと、私の気持ちなんかわかってくれないじゃないですか」
語気を強める私を、玉森さんは楽しそうに見つめる。
「心外だな」
「だって、玉森さんが何を考えてるのか私には全然わからないんだもん。私の常識なんて、玉森さんには通用しないから」
「いいよ」
「え?」
「恋人になろっか」
「・・・いいの?」
「俺以外の誰かと、手を繋いで欲しくないし、キスをして欲しくないし、仲良くして欲しくないから」
クスクスと玉森さんが笑う。
こんな幼稚な告白、玉森さんは生まれて初めて受けたんだろう。
「・・笑わないでください」
「何で?恋人」
「面白がってるじゃないですか」
「そんなことないよ、恋人」
「恋人って呼ばないで!」
「あはは!だって今時、恋人なんて言葉使うやついないからさ」
フローリングに寝そべって、笑い転げる玉森さん。
さっき私にキスをした玉森さんとは、まるで別人みたいだった。
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にかみつば(プロフ) - 北山くんのお話を優先して読んでたのですが、こちらも読んでみたらとても面白くてハマりました。三上先生の登場で更に面白い展開になってきて続きが楽しみです。いつも素敵なお話を作ってくださり、公開してくださりありがとうございます。 (2020年7月17日 16時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - marumarusubasubさん» marumaruさんは、もしかして横尾担様でしょうか?もしそうなら一緒です〜\(^^)/こちらが終わったら、書きかけの横尾さんのお話に取り組みたいと思ってます。いくつかお話をかかえてないと頑張れないので、未完がたくさんあるのがたまに傷な私です笑(*´-`)頑張ります★ (2019年9月16日 8時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
marumarusubasub(プロフ) - レスありがとうございます。嬉しいです。すごく読みやすく、特に横尾さんのお話大好きです。個人的に横尾さんのお話熱望ですm(_ _)mこれからも楽しみにしています! (2019年9月14日 20時) (レス) id: 7cd9d44213 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - ちい★さん» 本当に( ;∀;)やっとだったのに。設定的に30年近くかけて、初めて人を好きになったのに。。という、やりきれない気持ちになりました(自分で書いておきながら笑)。皆さんが願ってくださるラストになればいいなと思いながら(私も先は知らないのです)更新がんばります★ (2019年9月14日 15時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - わわかさん» わわわわ(*´-`)私の書いたお話にかわいさを感じてくださってるなんて〜(*^-^*)嬉しいな♪ちょっと今の展開は穏やかではありませんが、ほんわかじんわりなお話に戻れるように苦しい場面を乗り越えたいと思いますp(^^)q (2019年9月14日 15時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
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