第二話『動き出す気持ち』 ページ7
長時間の研修が終わって、会社を出る。
地元とは違う、明る過ぎる東京の夜に、まだあまり慣れることはできないでいる。
「委員長!」
そう呼ばれて、立ち止まる。
振り返るのが、少し怖い。
「・・委員長?」
「・・・その呼び方、恥ずかしいよ」
「そう?」
相変わらず、のんびりとした笑い方。
あまりの懐かしさに、なんだか泣きそうになってしまう。
「びっくりした」
「ん?」
「玉森くんがいたから、びっくりした」
「俺は別にびっくりしなかったよ」
「私を見た時、目を見開いてた」
「びっくりしたからね」
相変わらずのテキトーさ。
だけど目の前にいる玉森くんは、もう高校生じゃない。
「大人になったね」
「委員長も」
「だから、その呼び方やめて?同期の人たちに笑われちゃうよ」
「やだ?」
「やだ。玉森くんって、私の本名知ってる?もしかして忘れてるんじゃない?」
気まずそうに苦笑いをする玉森くん。
一度も会わなかった4年の間に、玉森くんが私を思い出すなんてこと、きっとなかったに違いない。
ふとした瞬間や、何かの拍子に、ついつい彼を思い出してしまっていた私の中に、玉森くんはこんなに浸透しているというのに。
「裕太!」
可愛らしい声と同じくらい可愛らしい人が、手を振って玉森くんの元にやってくる。
「紗弥?」
「私の会社の研修、少し早めに終わったから待ってたの」
耳に髪をかける彼女と、視線がぶつかる。
微笑んで会釈をしてくれた彼女に、私も慌てて頭を下げた。
「約束してたっけ?」
「してたよ?」
「あれ?ごめんごめん」
しょうがないなって顔をして、彼女が玉森くんを愛おしそうに見上げる。
「あ・・・じゃあ、私はこれで」
駅の方に身体を向けて、私は足早に二人の前を立ち去った。
「栗原!」
「・・え?」
「栗原Aだよ?委員長の名前」
驚く私を見て、玉森くんは嬉しそうに笑う。
「憶えてる。ちゃんと」
彼女の前で、どんな表情をしていいのかわからなくて、私は泣き笑いみたいな、可笑しな顔をしてしまう。
「じゃあ、また明日ね」
彼女と並んで歩く、玉森くんの背中をしばらくの間眺めていた。
あまりにも胸が痛くて、その想定外の胸の痛みに、私は途方に暮れてしまった。
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マキ(プロフ) - かのんさん» うわーん( ;∀;)嬉しいです!ありふれたありきたりな話しか書けませんが、好きだと言ってもらえてすごーーく嬉しいです(*^^*) (2021年4月17日 13時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
かのん(プロフ) - もう、本当に本当に大好きです!マキさんの作品、本当に大好きです!! (2021年4月16日 19時) (レス) id: 46e739e0e0 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - eiennianatadakeさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)私の書いたもので少しでも心が温まってくださったのなら、こんなに嬉しいことはありません(*^^*) (2021年4月15日 16時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
eiennianatadake(プロフ) - とても心が温かくなるようなお話でした!展開にハラハラしたり泣けちゃったり次回のお話も楽しみにしています! (2021年3月4日 3時) (レス) id: 69ceef1236 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - umiさん» このお話を好きになっていただけて嬉しいです!玉森くんのドラマが始まる前に書き終えたんですが、もうドラマも終盤ですね!時間が経つのが早くてびっくりしてます笑! (2021年3月3日 0時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
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