第九話『恋』(玉森くん) ページ42
「・・裕太?何か言ってよ」
「・・・ごめん」
「謝って欲しいわけじゃなくて、私のことをどう思ってるか聞いてるの!」
「沙弥に、愛情を感じてるのは嘘じゃない。君が辛い時は励ましたいし、体調が悪い日には、温かい食べ物を用意してあげたい。愛は無償だってよく言うよね?だからその全部を、俺は沙弥に還して欲しいとは思わない」
「だったら・・・
「だけど、栗原には還して欲しい」
「え?」
「俺が辛い時には側にいて欲しいし、体調が悪い日にも側にいて欲しい。俺が好きな分だけ、栗原にも俺を好きになってもらいたい」
栗原に感じるこの気持ちは、高尚な愛なんかじゃない。
青い、
青い、
ただの恋だ。
全然美味しくない果実みたいに、あの頃から少しも成長していない未熟な気持ち。
もう、熟すことはないのかもしれないけれど、俺の中で、大切に暖めることを許して欲しい。
「・・・・裕太は、どうして私と付き合ったの?」
「・・・・沙弥のこと、可愛くて、親切で、いい子だなって思った。いつか好きになれるんじゃないか、きっと好きになれるって、そう思ったんだ」
世界は、そういうふうに回っているんだと思っていた。
気持ちに折り合いをつけて、時間に身を委ねて、本当の気持ちを少しだけ誤魔化しながら、人波に流されるのが正しいんだと思ってた。
「好きになれなかった?」
「愛情は感じたけど、そこに・・・・そこに恋はなかった」
「最低」
「本当に、そう思うよ」
「・・・・・裕太」
俺にしがみつく、沙弥の身体が震えている。
首元を濡らす、彼女の涙。
だけど、こんな気持ちで、違う誰かを想っている心で、沙弥を抱きしめることはできない。
「・・沙弥、ごめん」
「・・・・嫌」
「・・俺と、別れてください」
もう、二度と、誰かに気持ちを委ねたりしない。
世界は回るけど、人波は流れていくけど、俺の気持ちは、あの頃から少しも変わることができなかった。
”栗原さんを貸して”
そう言って栗原の腕を掴んだその手を、離さなければよかった。
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マキ(プロフ) - かのんさん» うわーん( ;∀;)嬉しいです!ありふれたありきたりな話しか書けませんが、好きだと言ってもらえてすごーーく嬉しいです(*^^*) (2021年4月17日 13時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
かのん(プロフ) - もう、本当に本当に大好きです!マキさんの作品、本当に大好きです!! (2021年4月16日 19時) (レス) id: 46e739e0e0 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - eiennianatadakeさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)私の書いたもので少しでも心が温まってくださったのなら、こんなに嬉しいことはありません(*^^*) (2021年4月15日 16時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
eiennianatadake(プロフ) - とても心が温かくなるようなお話でした!展開にハラハラしたり泣けちゃったり次回のお話も楽しみにしています! (2021年3月4日 3時) (レス) id: 69ceef1236 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - umiさん» このお話を好きになっていただけて嬉しいです!玉森くんのドラマが始まる前に書き終えたんですが、もうドラマも終盤ですね!時間が経つのが早くてびっくりしてます笑! (2021年3月3日 0時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
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