第一話『18歳・春』 ページ2
玉森裕太。
出席番号22番。
去年は、4組にいたらしい。
帰宅部。
長身。
色白。
そして、すこぶる顔がいい。
これが全て。
玉森裕太に関する、私の情報の全ては、これだけだ。
担任の横暴な席替えの末、私は、玉森裕太の後ろの席に座っている。
すこぶるいいはずの顔は、まだ一度もまともに見たことはないし、話しかけたこともない。
今のところ、私は、玉森裕太の後頭部を眺めているだけだ。
「玉森・・・玉森裕太！」
窓ガラスが割れるんじゃないかってくらい大きな声で、数学の先生が、玉森裕太を怒鳴り付けた。
先生の気持ちも少しわかる。
玉森裕太は寝過ぎだと思う。
雷みたいな怒鳴り声に、さすがの玉森裕太も顔を上げた。
「玉森、この問題答えてみろ」
意地悪。
そんなの、玉森裕太がわかるはずないのに。
「お前、こんな問題もわからないくせに寝てたのか？！」
ねちねちと責め始める先生になんだか腹が立って、私は無意識に、玉森裕太の背中に向かって答えを言った。
「√3」
「・・・・・√3・・・です」
先生は一瞬ポカンとして、誤魔化すように咳払いをした。
「答えがわかるからと言って寝ていい理由にはならないからな」
「・・・すみませんでした」
反抗するわけでもなく、玉森裕太は素直な声でそう言った。
・・・なんだ。
不良生徒のわけじゃなくて、本当に眠くて寝てる人なんだ。
私は、玉森裕太のことを、随分誤解していたかもしれない。
チャイムが鳴って、先生が教室を出た瞬間、玉森裕太はゆっくりと私の方を振り返った。
初めて見た。
初めて、玉森裕太の顔をまともに見た。
想像以上に、綺麗な顔立ち。
柔らかそうな少しクルクルした髪は、多分、校則違反。
「さっき、ありがと」
「え？」
「√3」
「あ・・・√3」
「うん。√3」
ヘラヘラと、玉森裕太が笑う。
昨日見た、動物番組の子犬みたいに愛らしい。
「川原先生が、委員長にお世話してもらえって」
「委員長？」
「学級委員長なんでしょ？」
「長じゃない！副！」
「そかそか。じゃあ副委員長の副を取って委員長って呼ぶね？」
やっぱりヘラヘラと笑う玉森裕太。
「玉森くん」
「ん？」
「少し、寝過ぎだと思う」
「俺もそう思う」って笑って、玉森裕太は再び机に突っ伏した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 925人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マキ(プロフ) - かのんさん» うわーん( ；∀；)嬉しいです！ありふれたありきたりな話しか書けませんが、好きだと言ってもらえてすごーーく嬉しいです(*^^*) (2021年4月17日 13時) (
レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
かのん(プロフ) - もう、本当に本当に大好きです！マキさんの作品、本当に大好きです！！ (2021年4月16日 19時) (レス) id: 46e739e0e0 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - eiennianatadakeさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)私の書いたもので少しでも心が温まってくださったのなら、こんなに嬉しいことはありません(*^^*) (2021年4月15日 16時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
eiennianatadake(プロフ) - とても心が温かくなるようなお話でした！展開にハラハラしたり泣けちゃったり次回のお話も楽しみにしています！ (2021年3月4日 3時) (レス) id: 69ceef1236 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - umiさん» このお話を好きになっていただけて嬉しいです！玉森くんのドラマが始まる前に書き終えたんですが、もうドラマも終盤ですね！時間が経つのが早くてびっくりしてます笑！ (2021年3月3日 0時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
