第一話『18歳・秋』 ページ4
砂ぼこりと、大きな掛け声。
歓声とたまに怒号。
騒がしい体育祭は、多分、玉森くんにはあんまり関係ない。
応援席のテントの中で、やる気のない拍手を、周りに合わせて何度かやっていたけど、すっかり飽きてしまったみたいだ。
私はプログラムを確認して、玉森くんの席に近づく。
「次、玉森くんが出る競技だよ」
「え?俺も出るの?」
「一人一競技は出るって決まったでしょ?」
「え〜?やだなぁ」
ブツブツと文句を言いながら、玉森くんは素直に待機場所に向かう。
以前から思っていたけど、玉森くんは、案外真面目だ。
ピストルが鳴って、玉森くんがゆっくりとスタートを切る。
玉森くんの唯一の出場種目は、借り物競争だ。
競争という意識が全くない玉森くんは、歩いているのと変わらないスピードで借りるものが書いてる紙の前まで辿り着く。
紙を広げて一瞬考えた後、真っ直ぐに、クラスの応援席に走ってきた。
「委員長!」
私のことなのか、それとも田中くんのことなのか、周りのみんなはわかっていなかったけど、玉森くんの視線は、ちゃんと私に向けられていた。
「委員長・・・・・じゃなくて、栗原さん!」
「・・はい」
「栗原さんを貸して?」
「え?」
「一緒に走るんだよ」
私の手を引いて、玉森くんが応援席を出る。
どんどん赤くなっていくこの顔を、どうか、玉森くんが、息が上がっているんだと勘違いしてくれますように。
ゴールに辿り着くと同時に、自然と手は離れた。
「紙、見せてください」
競技の係の生徒がそう言ったけど、玉森くんの手元に、紙はなかった。
「落としちゃったみたい」
「なんて書いてありましたか?」
「学級委員を連れてくる」
そうか。
あの紙には、そう書いてあったのか。
何て書いてあったのかと、考えを巡らせていた恥ずかしい私に、どうか、誰も気づいていませんように。
「玉森くん、私の名前知ってたんだね」
「・・・・知っててよかったなぁ」
「え?」
「知らなかったら、田中と手を繋いで走ってたかも」
「学級委員、二人いるもんね」
「俺の中の学級委員は、栗原さんだよ」
「・・・・大して名誉なことでもないね」
何も言わずに、玉森くんは笑う。
目尻を垂らして。
ゆっくり、口角を上げて。
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マキ(プロフ) - かのんさん» うわーん( ;∀;)嬉しいです!ありふれたありきたりな話しか書けませんが、好きだと言ってもらえてすごーーく嬉しいです(*^^*) (2021年4月17日 13時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
かのん(プロフ) - もう、本当に本当に大好きです!マキさんの作品、本当に大好きです!! (2021年4月16日 19時) (レス) id: 46e739e0e0 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - eiennianatadakeさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)私の書いたもので少しでも心が温まってくださったのなら、こんなに嬉しいことはありません(*^^*) (2021年4月15日 16時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
eiennianatadake(プロフ) - とても心が温かくなるようなお話でした!展開にハラハラしたり泣けちゃったり次回のお話も楽しみにしています! (2021年3月4日 3時) (レス) id: 69ceef1236 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - umiさん» このお話を好きになっていただけて嬉しいです!玉森くんのドラマが始まる前に書き終えたんですが、もうドラマも終盤ですね!時間が経つのが早くてびっくりしてます笑! (2021年3月3日 0時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
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