透き通る

46 ページ46

マンションまでたどり着いた時、目の前に人影ができた。




顔を上げた私の目の前には、仕事帰りらしいみっくんがいた。





「みっくん？」





「明日試験のくせに、帰ってくんのおっせーよ！」





久しぶりに、まともに顔を合わせた。




久しぶりに、まともに会話している。





「・・勉強してきたから」




「もっと早く帰ってこい。風邪引いたらどうすんだよ」





「・・・うん」





久しぶりで緊張しているのは私だけみたいで、みっくんはいつも通りのみっくんだった。





「どうなんだよ」





「何が？」




「合格できんのか？」






「そんなのわかんないよ」





「無茶しやがって。周りがどんだけハラハラしてんのかわかってんのか」






「・・怒らないでよ」





「怒ってねーし！」





ムキになって言い返すみっくんはなんだか子どもみたいで、私は思わず笑ってしまう。





「何笑ってんだよ」






「ごめん・・何か・・嬉しくて」






「え？」





「みっくんとこうして話せるのが、すごく嬉しい」






当たり前だった毎日は、私の無謀な告白によって、まるで誰かに連れ去られたみたいに忽然と消えてしまった。






「・・ずっと避けてたでしょ？」





「避けてない」






「避けてた！」





「避けてたよ！」





「・・・やっぱり」






「だって落ち着かねーだろ？俺が目の前チラチラしてたら」





「そんなことない」





「そうか？」






一気に優しい顔になるみっくん。






小さい頃なら迷わず抱きついていたのに、今はもう、そんなことできない。






「ほら」




「え？」




差し出されたみっくんの掌には、赤い御守り。





「まぁ、気休めにしかなんねーけど」





「・・・わざわざ行ってくれたの？この神社、遠いよね？」





「有名なところの方がいいじゃん。なんとなく」







横尾くん。





横尾くんの言うとおりだった。





今、私が言うべき言葉は『好き』なんかじゃない。





みっくんを好きだというこの気持ちは消せないけど、私はまだ、みっくんに少しも追い付いていないから。





「・・みっくん」





「ん〜？」





「私、合格するから」





「そんなのわかんないって今言ってたじゃん」






「合格する！絶対！」





「よし！じゃあ頑張れ！」







ようやく、みっくんが笑ってくれた。






久しぶりに見る、大好きな人の笑顔だった。

47 (北山先生)→←45

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す