透き通る

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「おい、今日は早く寝ろよ？」




「わかってる」




「遅刻するなよ？」




「わかってる」




「忘れ物しないように・・・





「わかってる！横尾くん、そんなに心配しないで？」





反抗する私に、横尾くんはムッとしたような顔をする。





「明日、真冬並みの寒さになるかもしれないって」





「入試の日に限って・・。雪にならないといいな」






明日は大学入試の日で、さっきから横尾くんは、私の心配ばかりしている。





「横尾くんだって明日入試なんだからね？」




「俺、絶対受かるもん」




「油断しちゃダメだよ！」





ハロウィンもクリスマスもお正月もバレンタインも、今年の私には一切無縁で、ただひたすらに勉強した。




気づいたらいつの間にか冬になって、気づいたら、明日は入試本番だった。




「私、あんまり緊張してないよ？」





「ほんとかよ」





「ほんとだよ？だって、自分でもびっくりするくらい勉強したもん。悔いはないってくらい」





「ふーん」






図書館からの帰り道。




街灯が、暗い夜道を照らしている。





横尾くんは空を見上げて、それから白い息をはいた。




その横顔がとても綺麗で、思わず見つめてしまう。




「見とれんなよ」





「え？！そんなんじゃないよ！」





「冗談だろ？何焦ってんだよ」






そう言って、横尾くんが笑う。





くっきりとえくぼが出るくらい、大きな笑顔。





「横尾くん」





「ん？」





「ありがとう」





「何が？」





「勉強、教えてくれて」





「自分の勉強のついでだし」





「みっくんに振られてから、ずっと励ましてくれたし」





「励ましてない」





「・・・私のこと、好きになってくれて」





「もう好きじゃねーよ」






横尾くんは、自分が優しいことを隠そうとするけど、全然、隠せてないよ。





横尾くんは、ずっとずっと優しかった。






「優しくしてくれてありがとう」





「してない」





「・・うん」






何を言っても否定されるけど、それでも私は横尾くんに、ありがとうを何回言っても足りないよ。






「・・・ありがとう」






「しつこい」






試験が終わったら、すぐに卒業式だ。








もうすぐ私は、高校生ではなくなる。

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