33 (北山先生) ページ33
一度昇っていったエレベーターが、またホールまで戻ってきた。
「行くぞ」
扉が開く前に、俺はAの手を引いて、マンションの外に出る。
彼女の泣き顔を、誰にも見せたくなかったから。
「・・・みっくん、どこ行くの?」
鼻先を赤くして、Aがそう尋ねた。
「どこに行きたい?」
前を向いたまま言った俺に、Aは「全然思い付かない」って寂しそうに笑った。
制服姿のAを連れ歩くのは躊躇われて、結局、マンションの前の自販機で飲み物を買う。
カフェに二人で入ることさえ、俺たちには叶わない。
「まだ温かい飲み物は入ってないんだね」
「そうだな」
「いつ入るかな。コーンスープが入る頃には、受験勉強一色だろうなぁ」
「今も勉強ばっかしてんじゃん」
「・・そうだけど」
「横尾、いいヤツじゃんか」
「・・・え?」
「お前のこと、きっと大切にしてくれる」
「・・・どうしてそこで横尾くんの話になるの?」
「何で?いいヤツじゃん。お前にはあぁいうしっかりしたヤツが・・・
「みっくんはズルいね。どうしてちゃんとした返事をくれないの?どうして私を横尾くんに託そうとするの?」
「お前みたいな子どもに、俺の気持ちなんてわかんないんだよ!」
「さっきはもう子どもじゃないんだからって言ったじゃん!」
「それは・・・
「やっぱズルいよ。みっくんの都合で、私は大人になったり子どもになったりするんだね。じゃあいつになったら大人って認めてくれる?高校卒業したら?二十歳になったら?社会人として独り立ちしたら?」
「・・・A」
「私は子どもじゃない。みっくんを好きな気持ちは、子どもの頃と同じじゃない。みっくんをお兄ちゃんみたいだなんて、私は少しも思えないよ!」
肩で息をしながら、Aはまっすぐに俺の目を見つめる。
その瞳は、驚くほど透明で、その想いは、泣きたくなるくらい透き通っていた。
「・・・ただ、好きなの。それはきっと、大人の女の人が抱く気持ちと、少しも変わらない」
"好きって、何だっけ?"
そう尋ねた俺に、水城は呆れたような、諦めたような顔をした。
"最低の返事ですね"
そう言って立ち去った水城と、マンションに帰って行くAの後ろ姿が重なる。
・・・好きって、何だっけ?
小さくなるAの背中に問いかける。
お前を見て泣きたくなるこの気持ちは、一体何なんだろう。
1398人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マキ(プロフ) - 青黄赤緑紫LOVEさん» 大切な想い出を共有させていたただき、ありがとうございます。かき氷のシロップの全部がけ、北山くんと横尾くんの対比を明確にしたくて描いたシーンでした。私の思いついたシーンが誰かの想い出をくすぐることがあるなんて、なんだかジーンとしてしまいました(;-;) (2021年12月19日 17時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - ちはるさん» お返事が随分遅くなってしまいさました。すみません!横尾担からの北山担のちはるさんの為に作ったようなお話ですね笑!私も二人とも大好きです(*^^*) (2021年12月19日 17時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかみつばさん» コメントに気づかず、長い時間が経ってしまっていました。すみません!『透き通る』という題名なので、登場人物たちの気持ちをキレイだと言っていただけて嬉しかったです(*^^*) (2021年12月19日 17時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
青黄赤緑紫LOVE(プロフ) - 氷・レモン・氷、メロン・氷・ブルーハワイ、氷・最後にイチゴ・練乳でした。 最初はイチゴ練乳だから美味しかったのを覚えています。ブルーハワイの途中から味が混ざり独特な味がし、二人して吹き出した事を懐かしく思います。思い出させてくれて有難う御座います。 (2021年12月18日 21時) (レス) id: 3c812bd8e4 (このIDを非表示/違反報告)
青黄赤緑紫LOVE(プロフ) - 先日は、パスワード有難う御座います。 家事の合間に拝読させていただきました。かき氷のシロップ全部かけ…故主人と最期の夏祭りのかき氷、シロップ全部かけした事を思い出しました。私が買ったかき氷屋さんのは、氷とシロップを重ねて層にするもので下から (2021年12月18日 21時) (レス) id: 3c812bd8e4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ