22 (横尾くん) ページ22
「ねぇ横尾くん」
「ん?」
「これ、解き方合ってる?」
「・・・合ってる」
「ねぇ横尾くん」
「ん?」
「これを代入するの?」
「そうだよ」
"ねぇ横尾くん" "ねぇ横尾くん"
澤木が不安げに俺の名前を呼ぶたび、俺の保護本能が顔を出す。
澤木は昔からそうだった。
どこか自信なさげで、何をするにもゆっくりで鈍くさい。
俺はそんな澤木に、イライラさせられっぱなしだった。
イライラして、ムカついて、酷いことばっか言っていじめて、そうしているうちに、澤木のことを好きになっていた。
「ねぇ横尾くん」
「今度は何だよ」
「・・お囃子みたいなの聴こえる」
「あぁ。商店街の夏祭りだろ」
毎年、夏休みの最後の週に開催される夏祭り。
花火が上がるわけでもなく、有名人が来るでもない、小規模な商店街主催のものだ。
2年前、この街に帰ってきて久しぶりに夏祭りに顔を出したけど、あまりのしょぼさに驚いた。
「・・・行きたいのか?」
「あ、別に行きたくない。勉強しなきゃいけないし・・」
明らかに行きたそうな澤木に、やっぱり意地悪したくなる。
「お前、夏らしいことした?」
「・・・・ううん。受験生だし」
「来週から2学期始まるな」
「うん」
「夏の思い出、夏季課外だけかよ」
「・・・・ねぇ横尾くん」
「ん〜?」
「かき氷だけでも食べない?」
「食べない」
「食べよーよ」
"ねぇ横尾くん"
頼りない声で澤木が呼ぶ、俺の名前。
こいつにかき氷を食わせることが、俺の使命みたいに思えてくる。
「かき氷食ってる時間に、単語10個は覚えられるぞ?」
「・・そうだよね。我慢しなきゃ」
「・・でも」
「え?」
「でも、甘いもん食ったら、勉強に集中できるかもな」
「横尾くん!」
嬉しそうに、澤木が俺を見つめる。
かき氷のシロップは、何の味があるんだろう。
澤木が好きなシロップがあればいいなって、バカみたいに、そんなことを思っていた。
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マキ(プロフ) - 青黄赤緑紫LOVEさん» 大切な想い出を共有させていたただき、ありがとうございます。かき氷のシロップの全部がけ、北山くんと横尾くんの対比を明確にしたくて描いたシーンでした。私の思いついたシーンが誰かの想い出をくすぐることがあるなんて、なんだかジーンとしてしまいました(;-;) (2021年12月19日 17時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - ちはるさん» お返事が随分遅くなってしまいさました。すみません!横尾担からの北山担のちはるさんの為に作ったようなお話ですね笑!私も二人とも大好きです(*^^*) (2021年12月19日 17時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかみつばさん» コメントに気づかず、長い時間が経ってしまっていました。すみません!『透き通る』という題名なので、登場人物たちの気持ちをキレイだと言っていただけて嬉しかったです(*^^*) (2021年12月19日 17時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
青黄赤緑紫LOVE(プロフ) - 氷・レモン・氷、メロン・氷・ブルーハワイ、氷・最後にイチゴ・練乳でした。 最初はイチゴ練乳だから美味しかったのを覚えています。ブルーハワイの途中から味が混ざり独特な味がし、二人して吹き出した事を懐かしく思います。思い出させてくれて有難う御座います。 (2021年12月18日 21時) (レス) id: 3c812bd8e4 (このIDを非表示/違反報告)
青黄赤緑紫LOVE(プロフ) - 先日は、パスワード有難う御座います。 家事の合間に拝読させていただきました。かき氷のシロップ全部かけ…故主人と最期の夏祭りのかき氷、シロップ全部かけした事を思い出しました。私が買ったかき氷屋さんのは、氷とシロップを重ねて層にするもので下から (2021年12月18日 21時) (レス) id: 3c812bd8e4 (このIDを非表示/違反報告)
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