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「あ、うまい」
目の前の、今日、初めて会った彼は、私が作った料理を食べて、美味しいと笑う。
勘違いして怒鳴り込んだ私が言うのもなんだけど、この人は、もう少し警戒心を持った方がいい。
「倉谷さんは食べないの?」
「私はいいです」
「うまいのに」
「・・あの、今日はご迷惑かけて、本当にすみませんでした。そろそろ帰ります」
「どこに?」
「え?」
「どこに帰るの?」
「・・だから、家に・・」
「ないんでしょ?家なんて。渡辺くんと暮らすために、東京に出てきたんじゃないの?」
「・・それは・・」
「どこに行くつもりだったの?」
「・・ビジネスホテルとか」
「何泊できるだろうね。お金、そんないっぱい持ってんの?実家に帰ったら?」
「・・・実家には帰れないです。渡辺くんとのこと、みんなから反対されてて。彼、あんなだから。駆け落ちするつもりで出てきたんです」
「あらら」
申し訳ないけど、この人は、私のこの状況を能天気に楽しんでいるようにしか見えない。
「どうにかするしかないです。全部、自分の責任なんで」
「かっこいい〜〜」
「あの、バカにしてます?!」
「してる。バカだなって思ってる」
「何であなたにバカにされなきゃなんないんですか?!」
「だって、一人じゃないのに」
「え?」
「倉谷さんだけの身体じゃないのに。無理して、知らない都会を歩き回って、住所不定で、仕事もなくて、不安で、心細くて、悲しいって、毎日にお腹の赤ちゃんに語りかけるの?」
「私、そんなことしません。不安で悲しいなんて、赤ちゃんに言ったりしません」
「ここに住めば?」
「何言ってるの?」
「今は物置にしてるけど、一部屋余ってるし」
「・・・・どうして?」
「不満?」
「そうじゃなくて。何で、見ず知らずの私を置いてくれるの?」
「美味しかったから」
「え?」
「倉谷さんのご飯、美味しかった。渡辺くん、きっと帰って来るよ。毎日食べてたんでしょ?君の作るご飯を」
「・・うん」
「すぐに帰って来るよ。君の作るご飯を食べに。近いうち、絶対。だから、帰って来るまでここにいたら?家賃は、倉谷さんのご飯。どうかな?」
不思議な人。
全然、危険を感じさせない人。
普通ならあり得ないこの提案を、私は、素直に飲み込んでしまった。
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マキ(プロフ) - たまりんさん» うわぁ!随分前に書いたお話でしたが、読んでいただけて嬉しい(*^^*)しかも苦手なジャンルなのに、このお話がたまりんさんの大好きなお話になれたのなら、当時頑張って書いたことが報われます! (2020年6月4日 19時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 一番大好き (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 読んでみたら (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - でも、 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - こんにちは。マキさんが書く玉ちゃんが大好きです!でも、正直こういう複雑な身の上の女性とのお話は苦手で、今まで避けてきました。マキさんにパスワードをおしえていただき、一気に他の作品は読んだけど、やっぱりこちらのお話は最後に残ってしまいました。 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
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