いくつかの君の話

番外編・『宮っちとなずなちゃん』 ページ49

玉森に連れられて、なずなは俺の家にやってきた。



「え？！何？」



身構える俺に、玉森は申し訳なさそうな表情を浮かべる。



「宮田、今日、何か予定ある？」



「え？あるよ！今からアニメ鑑・・・



「ないな」



玉森はなずなにリュックを手渡すと、「5時に迎えに来るから」って言った。



「何なの？！」



「宮田ごめん。Aが熱出して。けっこう高熱なんだ。俺は休日出勤になっちゃって・・今に至る」



「はしょりすぎだろ！！！」



説明不足もいいとこで、あまりのことに開いた口が塞がらない。




「じゃ、よろしく」




深々と頭を下げて、玉森は去って行った。




視線を下に移すと、おさげ姿のなずなが、俺をニコニコと見上げている。




「入る？」




「あたぼー！」




あたぼー？



どこで覚えてきたんだ。




ぴょんぴょん跳ねながら部屋の中に入っていくなずなは、思いっきり土足！！



「ここは日本なんだよ。靴を脱ぎたまえ」




なずなは大人しく座ったかと思うと、俺に向かって足を投げ出す。




「脱がせたまえ」




なずなの背後に、玉森が盛大にチラつく。




ミニチュア玉森め！！！




お望み通り靴を脱がせると、なずなはソファの一番いい位置に腰を落ち着かせた。



「ジュース飲む？」



「飲む！」


「オレンジジュー・・



「もちろん生搾りだよね？」



「紙パックのやつですけど？」



「え〜！！」




「何、倉谷さん毎日オレンジ絞ってくれんの？」




「うちも紙パックですけど」




なんじゃそれ！！！



なずなの背中にファスナーがないか、思わず確かめてしまう。ファスナーを開けたら絶対中から玉森が出てくると思うくらい、なずなは玉森っぽかった。




「ねぇ宮っち」



「ん？」



「宮っちって、何で結婚しないの？」



「結婚？してるよ。俺の嫁たちです」



俺が、寸分狂わぬ間隔でキレイに並べたご自慢フィギュアを紹介すると、なずなは憐れみの視線を俺に向けた。


「宮っち、どうして彼女できないんだろうね」



「ほっといてくれ」




「渡辺パパですら、彼女できたのに」



"渡辺パパ"は、なずなの血縁上の父親で、年に数回、一緒にお出かけをするらしい。




「渡辺くん、元気？」





「うん！今の彼女お金持ちだから、ヒモ生活が快適なんだって」





「・・それ、お父さんたちには言わない方がいいよ」





「あたぼー」





案外一番大人なのは、なずななのかもしれない。

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