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お父さんには怒鳴られて、お母さんには泣かれた。
だけど二人とも、お腹の大きな娘を、最後は黙って受け入れてくれた。
結局私は、実家に帰ることしかできなかった。
一人で生きていくこともできないくせに、両親に反抗したりして、私は何てみっともない大人なんだろう。
「A、買い物に行ってきて?」
「うん」
家事手伝いとして、今は穏やかに実家での毎日をすごしている。
もうすぐ臨月になるお腹は、日毎に大きくなっていく。
お母さんに渡されたメモを頼りに、カゴの中に商品を入れる。
こうやってスーパーで買い物をしている時、ふいに、玉森さんとの日々を思い出してしまう。
女の子みたいに綺麗な顔も
ふにゃふにゃな笑顔で毒舌を吐く意地悪さも
たくさんの食べ物で、私を甘やかしてくれたあの時間も
何一つ、私は忘れることができない。
突然、買い物カゴに重みを感じて、カゴの中を確かめる。
「え?」
カゴの中には、入れた覚えのない、冷凍のたらば蟹。
ドサッ。
落ちてきた、高級缶詰め。
「・・・・何してるの?」
こんなことするのは・・・
こんなに無駄遣いばっかりするのは・・・
「・・・ねぇ・・・・何してるの?」
あなたしかいない。
「うまそうじゃん。一緒に食べようよ」
こんな田舎のスーパーに、お洒落な雑誌から抜け出たみたいな玉森さんが、いつものふにゃふにゃの笑顔で微笑んでいた。
あまりにも信じられない光景に、私は立ち尽くすことしかできない。
「・・蟹なんか買って、鍋でもするんですか?」
「鍋かぁ。それもいいかも」
「私は、一緒に食べませんよ?」
「何で?」
「・・・何でって・・・わかるでしょ?」
「わかんない」
とぼける玉森さんに、何だか怒りが沸いてきて、感情的になってしまう。
「見てください、このお腹。私、もうすぐ出産するんです。玉森さんの暇潰しに付き合ってる暇ないんです」
「暇潰しだって。ひっどいなぁ」
玉森さんは呟いて、私の買い物カゴを奪い取ると、さっさとレジに並んでしまった。
玉森さんを追いかけながら、夢を見てるんじゃないかと思った。
もしかしたら私は、自分に都合のいい夢を見ているのかもしれない。
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マキ(プロフ) - たまりんさん» うわぁ!随分前に書いたお話でしたが、読んでいただけて嬉しい(*^^*)しかも苦手なジャンルなのに、このお話がたまりんさんの大好きなお話になれたのなら、当時頑張って書いたことが報われます! (2020年6月4日 19時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 一番大好き (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 読んでみたら (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - でも、 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - こんにちは。マキさんが書く玉ちゃんが大好きです!でも、正直こういう複雑な身の上の女性とのお話は苦手で、今まで避けてきました。マキさんにパスワードをおしえていただき、一気に他の作品は読んだけど、やっぱりこちらのお話は最後に残ってしまいました。 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
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