45 (玉森くん) ページ45
携帯のアラームが鳴って目を覚ます。
部屋の中はシーンとしている。
朝食が準備されているわけもなく、倉谷さんは、やっぱりいない。
彼女がいなくなって、何回目の朝なんだろう。
世界中の孤独をかき集めたみたいな顔をして、倉谷さんは俺の前に現れた。
恋人が迎えに来てくれた今、彼女の孤独は、少しくらい和らいだだろうか。
感傷に浸っている俺を、突然のインターホンが現実に引き戻した。
「・・はい」
モニターには、全然しらない人が映っている。
『・・・・あの、玉森さんですか?』
「・・そうですけど」
『俺、渡辺といいます。倉谷Aが、先日までお世話になっていたと思うんですけど』
「・・・あっ・・」
突然の渡辺くんの訪問に、俺の頭は完全に思考停止に陥った。
・
二人とも黙ったまま、奇妙な時間だけが過ぎていく。
どうして渡辺くんは、俺の部屋にいるんだろうか。
どうして俺は、渡辺くんにお茶を出したりしているんだろうか。
「・・・・あの、玉森さん」
最初に口を開いたのは渡辺くんの方だった。
「あの・・・俺のせいで、本当にご迷惑おかけしました」
「・・別に」
「これ、俺の全財産です。Aがお世話になった分の迷惑料です。足りないかもしれないけど、今はこれだけしか持ってなくて」
「・・いらないです。そんなつもりで彼女を受け入れたわけじゃないし」
「受け取ってください!俺の、最後のけじめなんで」
「・・・最後?」
「Aに、フラれました」
「え?」
「お腹の子の父親にはならせてもらえませんでした」
「・・あの、俺、意味がわからなくて・・」
渡辺くんが何を言っているのか、俺には本当にわからなかった。
だって倉谷さんは、彼の元に帰ると、俺にはっきりそう言ったんだから。
「・・・好きな人がいるそうです」
「え?」
「Aは、あなたのことが好きなんです」
痛いくらい強く、瞼を閉じる。
どうしてあの時、彼女に『行くな』と言わなかったんだろう。
彼女の嘘を、どうして見抜くことができなかったんだろう。
どうして俺は、彼女の隣にいないんだろう。
苦しくて
ただ苦しくて
Tシャツの首元を強く握った。
渡辺くんが泣いていた。
苦しいのは、俺だけではなかった。
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マキ(プロフ) - たまりんさん» うわぁ!随分前に書いたお話でしたが、読んでいただけて嬉しい(*^^*)しかも苦手なジャンルなのに、このお話がたまりんさんの大好きなお話になれたのなら、当時頑張って書いたことが報われます! (2020年6月4日 19時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 一番大好き (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 読んでみたら (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - でも、 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - こんにちは。マキさんが書く玉ちゃんが大好きです!でも、正直こういう複雑な身の上の女性とのお話は苦手で、今まで避けてきました。マキさんにパスワードをおしえていただき、一気に他の作品は読んだけど、やっぱりこちらのお話は最後に残ってしまいました。 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
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