41 (宮田くん) ページ41
エレベーターの前で玉森と鉢合わせた俺は、ファイティングポーズで玉森からの攻撃に備えた。
「何やってんだ、お前」
玉森は生気のない顔で俺を見て、下向きの矢印のボタンを押した。
「え?やんないの?肩パンとか、膝蹴りとかさぁ」
「やってほしいの?」
「そういうわけじゃないけど」
到着したエレベーターに二人で乗り込む。
すんなりエレベーターに乗れたことなんて、入社以来一度もなかったのに。
「玉」
「ん〜?」
「何かあった?」
「別に」
「倉谷さんと、何かあったんだろ?」
「見透かすなって言ってんだろ?」
エレベーターの扉が開いて、玉森はスタスタと帰っていく。
「玉!」
慌てて追いかけていると、玉森が急に立ち止まった。
「宮田」
「何?」
「飯食って帰ろ?」
「今日、倉谷さんいないの?」
「多分まだいる」
「多分?」
「今日、出ていく予定だから。渡辺くん、倉谷さんのところに帰ってきた」
「え?」
玉森は意識して、何でもない風を装う。
「いつもの店でいっか」
わざとらしくテンションを上げる姿が、痛々しくて見ていられない。
「帰んなきゃ」
「は?」
「玉、倉谷さんのとこに帰りなよ」
「今日出て行くって言ってんだろ!」
「だからだろ?!だから帰れよ!ちゃんとさよならを言えよ!バイバーイって、いつもの緩い感じで送り出してやれよ!倉谷さんを迎え入れたのはお前だろ?だったら最後は見送ってあげなきゃいけないんだよ!」
声を荒げる俺を、玉森が唇を噛んで睨んでいる。
「・・・玉」
「宮田のくせに、俺に指図するんじゃねーよ」
俺のみぞおちにパンチをして、玉森は駆け出した。
明日から、夕飯には俺が毎日付き合ってあげよう。
おすすめアニメのDVDを、無期限でレンタルさせてあげよう。
玉の気がすむまで、サンドバッグになることを、甘んじて受け入れよう。
だから、ちゃんとさよならを言って欲しい。
好きな人の幸せを、ちゃんと祈ってあげて欲しい。
そうじゃなきゃ玉森は、きっと前には進めない。
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マキ(プロフ) - たまりんさん» うわぁ!随分前に書いたお話でしたが、読んでいただけて嬉しい(*^^*)しかも苦手なジャンルなのに、このお話がたまりんさんの大好きなお話になれたのなら、当時頑張って書いたことが報われます! (2020年6月4日 19時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 一番大好き (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 読んでみたら (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - でも、 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - こんにちは。マキさんが書く玉ちゃんが大好きです!でも、正直こういう複雑な身の上の女性とのお話は苦手で、今まで避けてきました。マキさんにパスワードをおしえていただき、一気に他の作品は読んだけど、やっぱりこちらのお話は最後に残ってしまいました。 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
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