29 (玉森くん) ページ29
俺が買い物カゴに何か入れるたび、倉谷さんは俺を二度見する。
それが何か面白くて、次から次に目についた食べ物をカゴの中に入れた。
「やっぱり今度から一人で買い物行きます」
「何で?」
「だって無駄なものばっかり買うんだもん」
「無駄なものにこそ幸せがあるんじゃん」
「節約体質の私には考えられません」
倉谷さんは呆れていたけど、別に戻せとは言わなかった。
例えば俺が、倉谷さんの恋人だったら、彼女はきっと俺の入れた不要なものを、全部元の場所に戻しただろう。
だけど俺たちは、一緒に暮らしてるけど別々で、干渉しないし干渉されない。
一緒にいるのに、一人ぼっちみたいだ。
「今日のご飯、何?」
「パスタ」
「あ、海老が入ってたやつ?」
「はい」
「やった。また食べたいなって思ってたんだ」
はしゃぐ俺を見て、倉谷さんが笑う。
「何?」
「やっぱり気に入ってくれてたんだなぁって思って」
「え?」
「玉森さん、黙々と食べてたから。好きなのかなぁって」
「だからまた作ってくれるの?」
「そうです。玉森さんが好きそうなものは、ちゃんとチェックしてるから」
前言撤回。
やっぱ俺たち、一緒に暮らしてるんだ。
相手が好きそうなもの作ったり、それを喜んだりしている。
無意識だけど、ちゃんと、"二人"で暮らしているんだ。
「ねぇ、この中で戻した方がいいと思うの、どれ?」
「え?」
「カゴの中身」
「玉森さんが入れたの全部」
お互い、顔を見合わせて笑う。
「はい、全部戻してきます」
俺も、覚えておこうと思った。
倉谷さんが必要じゃないと思うものを、俺もちゃんと、覚えておきたいと思った。
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マキ(プロフ) - たまりんさん» うわぁ!随分前に書いたお話でしたが、読んでいただけて嬉しい(*^^*)しかも苦手なジャンルなのに、このお話がたまりんさんの大好きなお話になれたのなら、当時頑張って書いたことが報われます! (2020年6月4日 19時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 一番大好き (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 読んでみたら (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - でも、 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - こんにちは。マキさんが書く玉ちゃんが大好きです!でも、正直こういう複雑な身の上の女性とのお話は苦手で、今まで避けてきました。マキさんにパスワードをおしえていただき、一気に他の作品は読んだけど、やっぱりこちらのお話は最後に残ってしまいました。 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
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