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「スーパー近いのに、何でいつも帰ってくるの遅いの?」
「散歩してます。散歩しながら、いろんな道覚えたり」
「じゃあ、今日も散歩してからスーパー行こうよ」
そう言って玉森さんは、ふわぁってアクビをする。
気がつけば、玉森さんと暮らすようになって1ヶ月が経っていた。
「いいね。春の散歩」
「はい」
もう桜は散ってしまったけれど、5月の空気は
なんとなく爽やかな気がする。
「あ、たんぽぽ」
玉森さんがたんぽぽを摘んで、嬉しそうに私に見せる。
「小学生ぶりにたんぽぽ摘んだ」
なんて無邪気に笑うんだろう。
微笑ましいはずなのに、何だか・・・苦しい。
「あ、これ何だっけ!これもよく摘んでたな。学校の帰り道」
「ナズナ?」
「ナズナって言うの?名前あったんだ」
「あるに決まってるでしょ?」
「ナズナ」ってもう一度口にしながら、玉森さんがナズナを摘む。
たんぽぽとナズナを見つけるたびに「あった」って言いながら摘んでいくから、なかなか先に進まなかった。
「よし、完成!」
私を振り返る玉森さんの手の中に、黄色と白の小さな花束。
「あげる」
「え?」
「どーぞ」
「・・ありがとうございます」
「どーいたしまして」
玉森さんが、眩しそうに目を細めて笑っている。
あまりの幸福感に、その場にしゃがみこんでしまいたくなった。
勘違いしちゃいけない。
この時間は、永遠に続くものなんかじゃないんだから。
来年のこの季節、私と玉森さんは、きっと全然違う場所に立っている。
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マキ(プロフ) - たまりんさん» うわぁ!随分前に書いたお話でしたが、読んでいただけて嬉しい(*^^*)しかも苦手なジャンルなのに、このお話がたまりんさんの大好きなお話になれたのなら、当時頑張って書いたことが報われます! (2020年6月4日 19時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 一番大好き (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 読んでみたら (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - でも、 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - こんにちは。マキさんが書く玉ちゃんが大好きです!でも、正直こういう複雑な身の上の女性とのお話は苦手で、今まで避けてきました。マキさんにパスワードをおしえていただき、一気に他の作品は読んだけど、やっぱりこちらのお話は最後に残ってしまいました。 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
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