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「あぁ、何か甘いもの食べたい」
あらかた料理を食べ尽くした頃、香山さんがそう言った。
「コンビニで何か買ってこようか?」
「いい。宮田くんセンスなさそうだから」
「ひっどいなぁ」
宮田さんの親切を一蹴した香山さんは、くるりと私の方を振り返った。
「倉谷さん、一緒にコンビニ行こ?」
「え?」
「甘いの嫌い?」
「好きです」
「じゃあ行こう」
香山さんに言われるままに立ち上がり、言われるまま、外に出る。
「近くにコンビニあったっけ」
「あります。横断歩道、渡った先」
「あぁ、あるね」って香山さんが言った後、どちらも話すことはなくしばらくの間、沈黙が続いた。
何か話しかけようと思っても、私は何を話していいのかわからなくて、パクパクと、金魚みたいに空気を飲むだけだった。
「倉谷さん」
最初に沈黙を破ったのは、香山さんの方だった。
「はい」
「・・・あの・・こんなこと言うのは失礼かもしれないけど・・本当に、妊娠してるの?」
「え?」
「・・本当に、玉森くんのこと、騙したりしてないよね?」
香山さんの私を見る表情が、とても申し訳なさそうで、何だかとても、切なくなった。
私はバッグから手帳を取り出して、中に挟んでおいたエコー写真を渡す。
「・・・まだ、まめつぶみたいに小さいけど、これが赤ちゃんです」
写真を受けとる香山さんの手が、少し震えている。
「玉森さんの厚意に、ものすごく甘えてる自覚はあるんです。本当に、ごめんなさい。だけど、私、八方塞がりで・・何をどうしていいのか、全然わからなくて。もう少し、考える時間を貰っていいですか?」
「・・・好きなの?」
「え?」
「玉森くんのこと」
「好きだなんて、玉森さんに対してそんな気持ちは持ってません。もし、私が玉森さんを好きなら、一緒には暮らせないです」
「ごめん。変なこと聞いて」
香山さんは私に写真を返すと、前を向いて歩き出した。
香山さんはきっと、私を見るたび、複雑な気持ちになってしまうに違いない。
申し訳なくて、一人じゃどうすることもできない自分が恥ずかしくて、私はしばらく、顔を上げることができなかった。
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マキ(プロフ) - たまりんさん» うわぁ!随分前に書いたお話でしたが、読んでいただけて嬉しい(*^^*)しかも苦手なジャンルなのに、このお話がたまりんさんの大好きなお話になれたのなら、当時頑張って書いたことが報われます! (2020年6月4日 19時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 一番大好き (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 読んでみたら (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - でも、 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - こんにちは。マキさんが書く玉ちゃんが大好きです!でも、正直こういう複雑な身の上の女性とのお話は苦手で、今まで避けてきました。マキさんにパスワードをおしえていただき、一気に他の作品は読んだけど、やっぱりこちらのお話は最後に残ってしまいました。 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
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