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会社から帰ってきた玉森さんは、何だか言葉少なで、とても神妙な顔をしていた。
「倉谷さん」
「はい」
「今日、宮田のとこに行ったんだって?」
「・・すみません。勝手なことして」
「別に」
「・・・あの、怒ってますか?」
「怒る?何で?」
「勝手に、玉森さんのお友達のところに行ったりしたから」
「全然。怒る理由ないし」
「・・よかった」
「でも、あんま無理しちゃダメだよ」
「え?」
「自分の辛い状況、他人に話すのはキツいだろ?」
「・・玉森さん」
「まぁ、宮田も納得してたし、もう煩いこと言われないと思うから」
「はい・・」
「じゃあ、ご飯食べよ?お腹すいた」
「すぐ用意しますね」
玉森さんは、あまり話したりしないし、話しても、テキトーなことばかり言ってるけど、たまにこうやって、『大丈夫か?』って私のことを気にかけてくれる。
『大丈夫?』『大丈夫』『じゃあ、頑張れ』
『大丈夫?』『大丈夫じゃない』『じゃあ、休んだら?』
これくらいのスタンスで生きればいいんじゃない?って、玉森さんは教えてくれてるみたいだ。
"そんなこと言ってねーし"って、怒られちゃうかもしれないけど。
「倉谷さん」
「はい」
「あのさ・・」
「何ですか?」
「・・その・・」
「?」
「おめでとう」
「え?」
「赤ちゃん」
「・・玉森さん?」
「倉谷さんが倒れた日、病院の先生が言ってた。"赤ちゃん元気ですよ、おめでとうございます"って」
「・・・」
「倉谷さん的には、めでたいんだよね?赤ちゃんが、お腹にいること」
「はい」
「じゃあ、やっぱりおめでとうだ!」
少年みたいに無邪気な、玉森さんの大きな笑顔。
こんなふうに真正面から『おめでとう』をもらったのは初めてだ。
「玉森さん」
「ん?」
「ありがとう」
「どーいたしまして」
そこから先は、いつも通りの玉森さん。
特に私に関心を示すこともなく、完全に一人の世界。
私はこの人に『ありがとう』を何回言っても足りない。
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マキ(プロフ) - たまりんさん» うわぁ!随分前に書いたお話でしたが、読んでいただけて嬉しい(*^^*)しかも苦手なジャンルなのに、このお話がたまりんさんの大好きなお話になれたのなら、当時頑張って書いたことが報われます! (2020年6月4日 19時) (レス) id: 50fef8eb31 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 一番大好き (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - 読んでみたら (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - でも、 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - こんにちは。マキさんが書く玉ちゃんが大好きです!でも、正直こういう複雑な身の上の女性とのお話は苦手で、今まで避けてきました。マキさんにパスワードをおしえていただき、一気に他の作品は読んだけど、やっぱりこちらのお話は最後に残ってしまいました。 (2020年6月3日 11時) (レス) id: afad14c6fa (このIDを非表示/違反報告)
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