42 (北山くん) ページ42
表面上は、いつも通りの日常に戻ることができた。
Aは、お父さんとお母さんの喫茶店を手伝うようになったし、時間を合わせて、今まで通りデートもしてる。
だけど、Aが戻ってきたという実感が持てない。
記憶がなかなか戻らないことに、焦る自分が情けなくて、意味のない言い訳を、いくつも自分自身に並べたてている毎日だ。
「あ、やばい。実家にパソコン置きっぱなしだった。取りに行ってもいい?明日使うんだ」
ドライブデートの帰り、昨日気まぐれに寄った実家に、忘れ物をしたことに気づく。
「いいよ」
「そういえば来たことないよね?俺の実家」
「こっちに帰って来てから?」
「いや、付き合ってからずっと」
正直、俺は父親と折り合いが悪い。
最近は、顔を見ればお見合いの話ばかりで、うんざりを通り越して辟易している。
どうせ反対されるに気まってるから、Aのことも、未だに紹介すらしていない。
「A」
「ん?」
「・・・もし、実家に寄って親父がいたら、Aのこと紹介してもいい?」
「・・・え?でも、手土産とか用意してないし、私、ちゃんとした格好じゃないよ?」
「いいよ。俺、親父に宣言したいんだ。ちゃんと大切な人がいること、見せつけときたいっていうか」
反対でもなんでもすればいい。
俺は諦めないから。
Aがいる日常の中を、俺はずっと生きていくって、そう決めたんだ。
.
「大きなおうちだね」
車から降りたAは俺の実家を見上げて、目を丸くする。
「そうかな」
立ち止まったままのAの手を引いて玄関のドアを開けると、家政婦の川田さんが出迎えてくれた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
頭を上げた川田さんは、Aの顔を見て目を見開く。
「・・何?川田さん、どうしたの?」
不思議に思ってAを振り返ると、Aは苦痛に顔を歪めて、こめかみを押さえていた。
「A?!おい、A!!!」
薄れいく意識の中で、Aは俺に向かってはっきりと「みっくん」って言ったんだ。
「北山さん」ではなく、あの頃と同じ呼び方。
Aしか呼ばない、あの呼び方で。
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れいな - 初めましてこんにちは。このお話が大好きで何度か読ませていただいております。そのたびに大号泣しています。こんな素敵な作品に出会わせてくださってありがとうございます。 (2020年7月4日 4時) (レス) id: ac9fdaad24 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - naoさん» はじめまして。コメントの通知が来ておらず、お返事が遅くなってすみません(>_<)naoさんは二階堂くんがお好きなんですね!私の書いたもので、少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです(*^-^*)書いててよかったです。コメント、ありがとうございます(^-^) (2019年8月26日 13時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
nao(プロフ) - 初めまして。二階堂高嗣で検索して、このス素敵な物語に出会いました。もう最初から最後まで、胸がギューっとなりながら一気に読み終えました。今まで読んだ作品の中で、1番好きです。本当に感動しました!大好きな二階堂くんがしあわせになってくれて嬉しいです! (2019年8月7日 3時) (レス) id: 98957e13af (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - くまのこさん» 意味がわからないくらい...なんて、そんなに泣いてくださって感激です(;∀;)お気に入り作者に登録していただいて、重ね重ねありがとうございます★ (2018年8月8日 19時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
マキ(プロフ) - にかあゆさん» 泣いてくださったんですね!うわぁぁ、ありがとうございます(;∀;)そして、全作品読んでくださったなんて嬉しいです! (2018年8月8日 19時) (レス) id: a3dcba5f46 (このIDを非表示/違反報告)
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